「止の村の数式」

村の名は止(やめ)。
この村は、古くからの言い伝えや伝説が息づく場所であり、その中にひっそりと埋もれた恐ろしい話があった。
村人たちは口に出すことを避け、特に外から来た者たちには語られない禁忌の物語。
耳を傾ける者があれば、その者は運命を呪われてしまうという。

物語の主役は、秋斗(あきと)という若者であった。
彼はある日、村外れの山で不思議な印を見つけた。
それは何かの数式のように見え、彼の好奇心を掻き立てるものであった。
秋斗はこの印を手に入れれば、何か特別な力が得られるかもしれないと考え、周囲にその話を広めた。
しかし、村人たちは一様に彼を止めようとした。
「その印は、村に災いをもたらすものだ。見つけてはいけない」と彼らは言う。

けれども、若い秋斗は人の言葉など気にも留めなかった。
彼は、あの印を元に一つの計算式を立て、秘密裏に自分だけの力を手に入れようとした。
秋斗は誰にも打ち明けず、毎晩その数式をひたすら計算し、夢中になっていく。

数日後、秋斗の身に異変が起こり始めた。
彼の周囲で奇妙な現象が続発するようになった。
友人たちや村人たちが次々と体調を崩し、噂によれば、彼の身の回りで不幸な出来事が続くとされていた。
村人たちは、彼の行動がこの一連の事件の原因だと考え、秋斗を村の中で避けるようになった。

ある晩、秋斗は夢の中で見知らぬ女に出会った。
彼女は姿を消しては現れ、彼に「この印を使うな。お前が何を求めても、それは必ずお前に返ってくる」と告げた。
彼は目を覚まし、恐れを感じた。
ここまできて、運命を躱すことはできないと気付き始めていた。

次の日、彼は村の賢者に相談することを決意した。
賢者は彼に、「この印は、過去の恨みを抱えし者の痕跡。数と力で他者を支配しようとする者には、過去の讐がその身に降りかかる」と警告した。
しかし秋斗はその意味を理解できず、計算に夢中になり続けた。
自分だけの力を手に入れることが、村のためになると信じていたからだ。

だが、ある晩、秋斗は友人たち全員を集めて、自分の計算を披露することにした。
誇らしげに、印からなる数式を語り始めると、村人たちは冷たい視線を向けた。
彼の言葉が愚かであることを理解していたからだ。
彼の話が続くほどに、村の雰囲気は張り詰めていった。

そして、その時、突如として暗雲が立ち込め、村の空が異様な色合いに変わった。
秋斗は恐ろしい気持ちに駆られ、計算を続ける手が震えた。
そして、友人の一人が「秋斗、もうやめろ!それは、呪いだ!お前の計算が村を呪っている!」と叫んだ。

次の瞬間、彼らの目の前で不気味な霊の集団が現れた。
彼女らは秋斗を責め、彼の計算の結果、村に災いをもたらしたことを訴えかけてくる。
過去の恨みを抱えた者たちの怨念が、彼の計算によって彼に向けられたのだ。
秋斗は恐怖に駆られ、うろたえたが、どんな言葉も届かなかった。

その日から、秋斗の姿は村から姿を消した。
村の人々は再び静けさを取り戻したが、秋斗の計算は決して消えることはなかった。
彼が数式に囚われ、恨みの印を読み解いたことが、彼自身の運命を狂わせたのだ。
そして今も止の村では、「秋斗の数式」を唱えた者が、彼の姿を見かけることがあるという伝説が語られている。
彼の影は、未来永劫、宿怨を抱え、村に留まり続けるのだ。

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