彼女の名前は美咲。
大学生で、友人と共に夏休みを利用して、未開の地へと旅に出ることになった。
行き先は、北海道の奥地にある人里離れた村だった。
村には、古くから伝わる言い伝えがあり、昔、村人たちが亡くなった後に、その音楽が聴こえる場所があるという。
その言い伝えに興味を抱いた美咲たちは、村に向かうことを決めた。
道中、美咲たちは好奇心にかられ、村の言い伝えをさっそく調べることにした。
「ねえ、美咲、あの場所に行ったら、本当に歌が聞こえるのかな?」友人の優子が言った。
美咲は笑顔で「試してみよう!」と答えた。
村に着くと、静けさに包まれた景色が広がっていた。
周囲にはまばらな民家がポツリポツリと立っており、村人たちの姿は見当たらない。
日が沈むと、美咲たちは話題の歌が聞こえると言われる古い神社へ行くことにした。
周囲は薄暗く、神社に近づくにつれて、奇妙な緊張感が漂ってきた。
神社の前に立つと、舞い込んできたのは優しい風と、遠くから微かに聞こえるメロディーだった。
まるで亡くなった人々が、何かを訴えかけるような美しい旋律だった。
「これが…噂の歌?」美咲は心を躍らせながら聞き入ったが、次第に不安が募ってきた。
この歌は何を意味するのか。
美咲たちがその場にとどまるほど、歌はますます大きくなり、まるで自分たちを引き寄せるかのようだった。
不安視に耐えかねた優子は「もう帰ろうよ」と言ったが、美咲はその場に留まりたかった。
美咲はその歌の正体を知りたかった。
そしてその瞬間、彼女の目の前に、黒い影が現れた。
影はゆっくりと彼女に近づき、その顔が見えると、美咲は驚愕した。
そこにいたのは、村の人々の姿であったが、彼らの目は虚ろで、まるで生気を失っているようだった。
歌声には、彼らの苦しみと惜しまれぬ愛が込められているように感じた。
驚きと恐怖で身動きが取れなくなる美咲。
彼女の心の中には、封印された記憶が蘇り始めた。
もしこの歌が村の人々の未練であれば、彼らを解放するには何かをしなければならない。
美咲は強い意志を持って、「私たちに、助けを願っているのですか?」と声を掛けた。
その瞬間、歌が止まり、静寂が訪れた。
村人たちの悲しそうな目が、美咲を見つめた。
彼らの口が動き、歌が再び流れ始める。
「解放されるために、私たちの歌を思い出して…」という声が、耳に響いた。
美咲はその呪縛を解くため、心の底から思い出すことにした。
彼女は、村の伝承や歌を調べ、彼女の祖母から聞いた古い歌を思い出そうとした。
次の瞬間、美咲は自らの声を上げ、村の人々の歌を口ずさみ始めた。
すると、不思議なことに、村の人々の顔が次第に明るくなっていく。
その歌を通じて彼らの未練が解き放たれていくのがわかった。
村こそ、彼らの記憶の逆転の地、その場所でしか叶わない想いの解放の場だったのだ。
最後の一節を歌い終わると、村人たちの姿は徐々に霧のようなものとなり、空に上っていった。
歌は完全に消え、静けさが戻った。
美咲は立ち尽くすと、優子が近づいてきた。
「すごいことが起こったね」と優子は言った。
美咲は微笑みながらも、彼女の胸には村人たちの思い出が刻まれる。
彼女は、「私たちが歌で彼らを解放できたんだ」と思った瞬間、空が晴れわたり、何もかもが新しい光に包まれたのだった。