ある神社の奥深くに、ひっそりと佇む古い御神木があった。
この木は、古から神に仕える者たちによって「折れの木」と呼ばれ、歌を通じて人々の願いや悲しみを神に伝える神聖な場所とされていた。
しかし、近年、その神社の周辺に不穏な噂が広がり始めた。
人々の間では、御神木の下で歌を歌うと、歳月を経ても劣化しない美しい折り紙が次々と現れるという。
そして、それらの折り紙には、様々な願いが込められていると言われた。
しかし、その歌が持つ力には、陰と陽の両面があるという警告も存在した。
歌う者の心が不純であれば、その折り紙は、不幸を招く象徴としての意味を持つようになる。
ある晩、若い女性の名を「沙織」と言った。
彼女は日々のストレスや疲れを軽減するために、神社を訪れ、御神木の前で歌を歌うことに決めた。
沙織は、純粋な心で願いを込めた美しいメロディを紡いでいった。
その日、彼女が歌っていると、心に響くような湿った音が耳を打ち、その声はどこからともなく聞こえてくるような気がした。
沙織は、まるで神の声が自分の歌に反応しているかのように感じ、次第に高揚していった。
メロディを重ねながら、彼女の周りには美しい折り紙が次々と現れ始める。
それは白く輝く鶴や花、夢の景色を思わせる形をしていた。
沙織は、その光景に魅了され、一層歌に熱を込めていった。
しかし、その瞬間、突然冷たい風が吹き荒れ、御神木が大きく揺れた。
沙織の胸に、かすかな異変を感じた。
歌が終わりに近づくにつれ、折り紙の模様が変わり始め、次第に暗い影を落とすような不気味な形状へと変化した。
その時、彼女は「解」と書かれた折り紙が一枚、柱の間に舞い上がるのを目撃した。
不安が胸に広がり、心の内に何か薬のように焼け付く感情が湧き上がる。
彼女はしなやかに踊るように、危険な予感を背に御神木の前に立った。
「私の心の影が映し出されているのか?」
沙織は疑問を抱えた。
その瞬間、彼女の目の前には一人の老女が現れた。
彼女は厳しい顔で、「歌い続けよ。しかし、心の折れた者の願いは、易々と叶うわけではない」と警告した。
沙織は緊張感に包まれ、代わりに歌のメロディを内に秘めるようにして静かにつぶやいた。
日が明けると、沙織は不気味な感覚に包まれたまま、町に戻る。
しかし、彼女に待ち受けていた現実は青ざめたものであった。
彼女の周囲では、嫌なことばかりが続き、最愛の家族や友人たちが次々と不運に見舞われていく。
彼女の心に誕生した恐怖が、いつしか歌のメロディと結びついてしまったのだ。
折り紙たちは沙織のもとに集まっていくが、どれも不幸の象徴ばかりで、喜びを伴うものは一つもなかった。
彼女の思い通りに願いが叶うことはなく、歌に込めたはずの願いは、逆に彼女にとっての試練を生み出す原因となっていた。
年月が過ぎ、沙織はかつての清らかな心を取り戻そうとするが、それは叶わぬ夢となっていくばかりだった。
彼女は「折れの木」へ戻り、冷静に神に向けて歌を捧げることを決意する。
自らの傲慢さに対する反省を込めて、彼女は真摯に詠んだ。
「どうか、私の歌を聞いてください。この折り紙の力を知る者として、真心を捧げます」と。
歌に込めた思いは、今までのものとは違った深い響きを持つように感じられた。
静寂の中、彼女の歌が響きわたり、今度こそ運命を変えることができるという希望が心に宿り始める。
しかし、それは彼女が抱える影が消えることを意味しないかもしれなかった。
歌の力の真意を理解することが、沙織が折り紙の運命を解く鍵となるだろう。