「次の代が呼ぶ怪」

長い年月を経て、町の片隅にひっそりと佇む古びた商店、その名は「喜久屋」。
その店主は老舗の証として、代々受け継がれてきた様々な品々を取り扱っているが、誰もが何かが違和感を覚えていた。
店を訪れる人々は、どこか薄暗い雰囲気に引き寄せられつつも、何かに怯えるようにその店を後にすることが多かった。

店主の名は佐藤幸之助。
彼は年齢こそは70を超えていたが、動きは軽快で不思議と若々しさを感じさせる。
しかしその眼差しには、何かを見つめるような奥深いものがあった。
町の住民たちは彼のことを敬愛こそしていたが、どこか恐れも抱いていた。
過去に多くの人が満たされた笑顔を持ち帰ったというこの店。
しかし、近年は異変が起きるようになった。

ある秋の夜、ひとりの若者がその店を訪れた。
名を山田一樹。
彼は子供の頃から町の噂で「喜久屋」に関する怪談を聞き、自らの目で確かめたいと思っていた。
入店すると、幸之助はこれまでの年月を物語るような笑みを浮かべた。

「いらっしゃい、一樹くん。探しているものがあるのかい?」

山田は少し戸惑いながら答えた。
「特には…ただ、噂を聞いて興味があって。」

幸之助はニヤリと笑い、奥の棚から一つの品物を取り出した。
それは古びた鏡だった。
大きさは手のひらほどで、表面には微かにかすれた文字が刻まれている。
「私の代を受け継げ」という言葉だった。
山田はその鏡を触ることなく、身を引いた。

「これは代々受け継がれてきたものだ。触れる者には、それぞれの怪が訪れる。」

彼の言葉に不安を覚えたものの、一樹は好奇心が勝ってしまった。
一度だけ触れてみようと思い、手を伸ばした。
その瞬間、鏡の中に映る自分の姿が少し歪んで見えた。
周囲の空気が重くなり、耳元には低い囁き声が聞こえてきた。

「おまえの代、どうするのか?」

心臓が高鳴る中、一樹は思わず鏡を引っ込めた。
幸之助はその様子を見て、微かにうなずいた。
「すでに、おまえの運命が決まったようだな。」

その後、山田は次第に不気味な現象に取り憑かれるようになっていった。
夢の中で鏡の声が囁き続け、彼の知らぬ間に過去の人生や、代々の宿命を感じ取るようになった。
「おまえが受け入れなければ、次の者を引き込む。怪嘘を生むのはお前だ。」

日常生活の中で繰り返される囁きが、彼を精神的に追い詰めていく。
周囲の人々にも変化があらわれ、彼の目を見た者は直感的に彼から恐怖を感じるようになっていた。
そして、ある晩、ついに山田はその鏡に自らの運命を決める決意を固めた。

再び「喜久屋」を訪れ、幸之助に尋ねた。
「この代を断ち切るにはどうすればいいのですか?」

老店主は静かに微笑み、「代々続くもの全てに、選択の自由がある。しかし、一度触れた以上、この運命は簡単に変えることはできない。」

彼の言葉は、山田の心に重く響いた。
ついに彼は恐れずに鏡に触れた。
「この旅は私の代で終わりにする。」

その瞬間、全てが暗転し、彼は鏡の中へと吸い込まれていった。
周囲の人々は騒ぎになり、幸之助はただ静かに目を閉じてその光景を見守ったことであろう。

数日後、町には新たな噂が立った。
「次の代が受け継いだ」という言葉に、あの鏡が再び店に置かれる様子を見た町の人々は、山田の姿を見つけることがなかった。

鏡は再び光を取り戻し、次の怪を呼び寄せる準備が整ったのだ。

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