「欅に宿る呪いの声」

公(こう)は、都内の静かな公園に住む一人暮らしの男性だった。
日々の忙しさから逃れるため、彼は仕事帰りに公園を訪れ、木々の間で静かなひと時を過ごすのが習慣だった。
特に大きな欅(けやき)の木が彼のお気に入りで、その木のそばに座ると心が落ち着くのを感じていた。

ある晩、公はその木の下でウトウトしていると、不思議な夢を見た。
夢の中では、彼は木の上に登り、そこから見下ろすと周囲の景色が一変していた。
枯れた雪景色の中に立っているかのような無機質な世界で、彼の視界の隅には無数の人影が見え隠れしていた。
まるで、誰かが彼を呼んでいるかのような囁きが耳に届く。

公は目を覚まし、夢のことを気にしながらも日常生活を続けた。
しかし、次の晩も同じ夢を見た。
彼はまた木の上にいる。
周囲には異様な空気が漂い、影のすぐそばまで近づくと、彼は顔を見知った人々のものだと気づいた。
友人であり、故人となった人たちだった。
彼らの顔色は青白く、怨念がこもった目が公を見つめていた。
そして、その瞬間、彼は異様な感覚に襲われた。
この木はただの木ではない…何か、呪われた存在なのだと。

数日後、公はその不気味な夢に耐えられなくなり、日中にも公園を訪れることにした。
木に近づくと、何か異変が起こるのを感じた。
心の中で一つの考えが浮かんだ。
彼はこの木に何か呼び寄せられているのか?その時、木の根元に折れた小枝を見つけた。
無意識に彼はそれを手に取り、何かを試みた。
「この木が私に何を伝えたいのか、教えてくれ」と言いながら。

その言葉が木に届いたのか、公は次の瞬間、急に周囲が暗くなり、木の中から無数の光が浮かび上がった。
夢の中の影たちが、今度は現実に彼の前に現れた。
無言で彼を取り囲む中、彼は思わず「何があったの?どうしてここに?」と叫んだ。
すると、影の一つが口を開いた。
「私たちを解放してほしい。呪いが私たちの魂をこの場所に縛っているのだ」。

公は恐怖におののいたが、何か使命感のようなものが芽生えた。
彼はその呪いの正体を知りたくなり、過去にこの木がどのようにして呪われたのかを調べることにした。
公園の管理事務所で木の歴史を調べると、数十年前、山から移植されたこの欅は、確かな歴史を抱えていることがわかった。

それは、悪い神を封じ込めるために植えられた木であり、その役目を果たすもつれた魂が今でもこの木に宿っているというのだ。

彼は呪いを解くために必要な計算を書き留めた。
月の満ち欠けや方位、古の儀式に関するあらゆることを覚え、自らを捧げる覚悟を決めた。
次の満月の日、公は木の下で儀式を行った。
バラの花を捧げ、呪文を唱え、最後に魂たちに訴えた。
「解放を求めるなら、私もあなたたちと一緒に行く。」その瞬間、青白い光が彼を包み、魂たちの頂点にいる影たちが彼を見つめ直した。

公はその瞬間、空間が大きく揺れ動くのを感じた。
彼自身が魂の一部となり、木と融合する感覚に襲われた。
気がつくと、彼の周りには満月の光が差し込んでいて、影たちが彼を解放するように見えた。
公は安堵の表情を浮かべながらも、ふと違和感を感じた。
それは今まで当たり前だった日常が、もはや彼には戻れないことを意味していたからだ。

ひとたび解放された魂たちは、木に宿る呪いを浄化し、二度と再生しないことを約束した。
公はその後、周囲の世界が静まり返るのを感じながら、ただ木の下に立ちつくした。
彼はそのまま眺めることしかできなかった。
その木は彼にとって、心の拠り所から、別の存在へと変わったのだ。
彼はもう一度木を見ることができないかもしれない。
しかし、彼はかつてその木に隠された命の声を聞いたこと、魂を解き放ったことを心に刻み続けるだろう。

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