静かな森の奥深く、壮大な木々に囲まれた小道があった。
その道を、大学生の智也は友人たちと共に歩いていた。
キャンプのための準備を整え、彼らは森へと足を運んでいた。
そんなある日、彼は普段とは違う感覚に襲われる。
それは、森が何かを見つめているかのように感じる目だった。
親友の美咲と健太、そしてあまり話さない静かな由紀を含む四人は、キャンプの楽しみを期待しながら進んでいった。
しかし、木々の間から漏れ出る月明かりが、彼らの足取りを一瞬止めた。
何かの視線を感じたのだ。
その瞬間、智也は鳥肌が立った。
「みんな、なんか変じゃない?」彼は不安を伝えるが、友人たちは笑って「気のせいだよ」と言った。
キャンプファイヤーを囲んで楽しむひととき。
しかし、外の静寂は森林の深さを感じさせ、智也の心は次第に不穏なものへと変わっていく。
月が完全に空に浮かぶころ、友人たちがそれぞれ自分の部屋に戻った後、智也は一人でトイレへと向かった。
道中で再びその目の感覚が襲ってきた。
視線は彼の背中を追いかけているようだった。
トイレを終えて戻る途中、ふと森の奥からかすかな声が聞こえる。
「助けて…」それは女の声で、弱々しく響いていた。
智也は思わず立ち止まり、声の主を探す。
「どこにいるの?」と問いかけるが、返事はなかった。
彼は心の悪戯かと思い始めたが、声が消えた瞬間、何か冷たいものが彼の背後を通り抜ける気配を感じた。
智也は慌てて友人たちのもとに戻ろうと走り出したが、いつの間にか道が分からなくなり、周囲の景色は意識的に歪んで見えるようになった。
そして、彼の道には一つの部が見えた。
それは、幾重にも重なった太い木々の間に隠れていた。
好奇心に駆られ、彼はその部へと近づいていく。
部の中に入ると、妖しい雰囲気が漂っていた。
木の根が絡み合い、まるで生命そのものがうごめいているようだった。
その中心には、小さな池があり、その水面には無数の目が映り込んでいた。
まるで、その池が被写体を映し出す鏡のように、森の様々なものを捉えていた。
智也はその目の奥に何かを求めるような感覚を覚えた。
「助けて…」あの声が再び響いた。
智也はその声に導かれるように、池のほとりへ近づく。
水面に目を近づけた瞬間、彼の目の前に映ったのは、彼を見つめる無数の目だった。
それは生きている目で、じっと彼を観察しているように感じた。
そのとき、彼は思い出した。
昔、森で遊ぶ友人たちの姿が薄れるように消えていったことを。
「彼らに何があったんだ?」彼の心に不安が広がる。
だがもっと恐ろしいことが起こった。
周囲の木々が彼に向かってゆっくりと迫り、圧迫感が増していった。
すぐに智也は冷静さを失い、必死に逃げようとした。
しかし、その部は彼を捉え、動けなくさせる。
目は彼の心の奥に潜む恐怖を映し出し、それに取り込もうとするかのように大きく開かれ、同時に森の奥から再び女性の声が聞こえてきた。
「こっちに来て…」智也の心は恐怖に捕らえられ、彼はその声に引き寄せられていく。
まるで幻のように、彼は声の主に惹かれていった。
だが、心のどこかで友人たちの笑顔が思い起こされる。
「戻りたい…」その願いが彼を一瞬解放し、意識が戻ると、森は静寂に包まれていた。
翌朝、友人たちは智也を探していたが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
キャンプを終えた後、村人たちに聞くと、「森に消えた者はいない」と語られ、智也はそのまま幻となった。
森は変わらず存在し、秘めたる目は、次なる迷い人を待ち続けていた。