ある静かな地方の町、名もなき村の片隅に「う」という場所があった。
山に囲まれ、自然に恵まれたその村は、外界との繋がりがほとんど無い。
村人たちは代々、家族と共に平穏な日々を送っていたが、彼らの生活には一つの古い言い伝えがあった。
「う」の近くにある小さな森には、罪を犯した者が迷い込むと、必ず消えてしまうというものだ。
村には「無」という名の若者がいた。
彼は物静かで、感情をあまり表に出さない性格だったが、心の奥には抑えきれない罪を抱えていた。
無は、数年前に最愛の妹を事故で失ってしまった。
そしてその事故の背後には、彼が無視していた大切な警告があったことに気づいていたが、その罪の意識から逃げ出すことはできなかった。
彼はその罪を抱えたまま日々を過ごし続けていた。
ある夜、無は苦しい深い夢にうなされていた。
夢の中で、彼は妹の笑顔を見た。
その笑顔がいつしか悲しみに変わり、彼を責めるかのように見えた。
目が覚めると、その夢の余韻が消えないまま、彼は「う」に足を踏み入れることを決意する。
彼は頑なに閉ざされた心のドアを開き、妹の声を聞くために森へ行くことにした。
森に足を踏み入れると、空気が変わり、薄暗い霧が立ち込めていた。
無は心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、辺りを見渡す。
やがて、彼は先へ進むにつれて、自分がかつて聞いたことのある「帰れ」という囁きを耳にした。
背筋が凍りつき、彼は立ち止まった。
だが、その声に誘われるように、無はさらに奥へと進んでいく。
どこかで妹の姿が見えるような気がしたのだ。
やがて、森の中心に辿り着くと、彼は信じられない光景を目にした。
無数の霊が空を舞っており、彼の周りを囲むように浮かんでいた。
彼らは皆、哀しげな表情を浮かべ、未練や後悔に満ちた目で無を見つめていた。
その中には、かつての妹の姿もあった。
「無、なぜ私を置いていったの?」彼女の声が響く。
無は心が躍り上がる一方で、恐怖に襲われた。
彼は妹の姿を目にし、飛びつこうとするが、何も届かない。
その瞬間、無の心の中に隠されていた全ての罪が一気に押し寄せてきた。
彼が妹を守れなかったこと、家族を裏切ったこと、全ての責任は彼にあった。
無は次第にその場から去りたくなり、いっそのこと全てを忘れたいと思った。
「このまま飛んでいければ、全てが消えるかもしれない」と。
彼は空を見つめ、今にも飛び立とうとした。
しかし、無の心にある罪が彼を引き留め、虚無の中へと引きずり込もうとした。
心の奥底で、「無」と呼ぶ声が響き渡る。
「戻れ、私はここにいる。私を見捨てないで」と。
彼はその声に足を引き戻され、ふと我に返った。
無は今、自分が何をしようとしているかを思い知った。
突然、周囲の霊たちが一斉に彼に迫ってきた。
「罪を償え、さもなくば消え去るがいい」と無情な声が響いた。
無は思わず後退り、混乱した。
彼は今まで逃げ続けてきた罪と向き合わざるを得ない状況に追い込まれた。
彼は妹との温かい思い出を必死に思い出し、彼女が望んでいる未来を描くことで、その場から逃れようとした。
無は力強く心の奥から叫んだ。
「私はもう逃げない、君のために生きる!」その瞬間、森の霊たちの姿が薄れ、周囲の景色が明るくなった。
彼は森を後にし、妹への思いを胸に抱きながら、改めて生きることを決心した。
罪を背負ったままではなかった。
彼は新たな一歩を踏み出し、この村で大切な人々を守るために生きていくことを誓ったのだ。