春の訪れと共に、桜が満開の季節がやってきた。
町の公園に広がる桜並木は、多くの人々が訪れるスポットであり、特に一年に一度の花見の日は、賑わいに満ちていた。
しかし、その桜の木の下には、ひとつの古い言い伝えがあった。
西田雅人は、そんな桜並木で友人たちと花見を楽しんでいた。
彼は軽やかな性格で、何事にも前向きな性格だったが、その日、彼の心にはどこか不安があった。
友人たちの楽しそうな会話も耳に入らず、雅人は一人だけ違和感を覚えていた。
夜が近づくにつれ、桜が風に揺れるたび、彼の心に忍び寄る影があった。
その影は、小さい頃に体験した痛ましい出来事から来ていた。
彼は幼い頃、同じ班の友達と遊ぶ約束をし、その友達が桜の下で一緒に遊ぶつもりだった。
しかし、約束を破って別の遊びに行った彼のせいで、その友達は事故に遭い、亡くなってしまった。
その時の罪悪感が、今も彼に影を落としていた。
友人たちが楽しむ姿を見つめながら、雅人はふと自殺を心に抱えた友達の様子を思い出した。
その子は、いつも彼と一緒に桜の木の下で遊ぶことを楽しみにしていたのだ。
雅人は心の奥で、その姿との再会を夢見ていた。
しかし、心の中には常に“迷い”があった。
果たして、自分が桜の木の下にいる資格があるのだろうか。
夜が深まる中、彼は友人たちが遠くに行っているのを見て、桜の木の下に近づいていった。
その瞬間、異変が起こった。
薄暗い影が彼の周りを取り囲み、まるで彼を待っていたかのようだった。
そこに現れたのは、かつての友人の姿だった。
優しげな顔をした彼の姿は、どこか微妙な違和感を漂わせていた。
雅人は恐怖と驚きを隠しきれなかった。
「雅人、やっと会えたね。」友人の声は、懐かしくも少し不気味な響きを持っていた。
「どうして…どうしてここに？」雅人は震えながら尋ねた。
「ずっと待っていたよ。君が来るのを。君の心の迷いを解消するために。」友人は穏やかに微笑んだが、その笑顔の裏には何か影があるようだった。
「私は、君のことを…その…」雅人は言葉に詰まり、続けられなかった。
「知らないふりをすることはできない。君は私を忘れたのか？それとも、今度こそ私を一人にしないと誓ったのか？」友人の姿は次第に不気味さを増し、反転して彼に迫ってきた。
混乱した雅人は、必死に逃げ出そうとした。
しかし、桜の花びらが舞い散る中、その道は迷路に変わっていた。
友人の声が耳元でささやく。
「逃げる必要はない。私たちは再びつながれる。今度こそ、永遠に。」
雅人は絶望的な状況に、心の中でしっかりと決意した。
彼は友人との過去に裂かれた関係を終わらせるため、逆にその影と向き合うことを選んだ。
「君を忘れようとは思わない！でも、君を自分の中に閉じ込める気はない！」そう叫ぶと、まるで桜の花がその声に共鳴するかのように、周囲の空気が波打った。
すると、友人は悲しそうに微笑み、静かに消えていった。
「私は永遠にはいない。でも、君の心の中で生き続けることはできる。迷いを振り切りなさい。」その言葉を最後に、友人の姿は完全に消え去った。
桜の木の下に立つ雅人は、迷いが晴れたように感じた。
彼は心の中で友人のことを抱きしめ、その想いを大切に生きていくことを誓った。
桜が散りゆく中、新たな決意を胸に、彼は自分の未来に向かって歩き出すことができた。
