「村の終わりと始まり」

何も代わり映えのしない日常を過ごしていた佐藤健太は、ある日の休日に、荒れ果てた山の奥深くにあると言われる廃村を訪れることに決めた。
人々が長年敬遠してきたこの村には、かつて人々の営みがあったが、いつしか何かの原因で住民が姿を消してしまったという噂が広まっていた。
この村には「不幸が訪れる」との言い伝えがあり、誰もその真相を知ろうとはしなかった。

健太は恐れや不安を抱きつつも、好奇心に駆られ、足を踏み入れることにした。
細い道を進むうちに、周囲が次第に静寂に包まれていくのを感じた。
あたりは荒れた樹木が生え乱れ、村の名残すら感じさせない風景が広がっていた。
しかし、彼は多少の恐怖感を押し殺し、ついに廃村にたどり着いた。

村は完全に廃墟と化しており、朽ちかけた家屋が風に鳴いていた。
足元の土は干からび、乾いた音を立てた。
何の前触れもなく『軋む』音が、彼の耳に響いた。
それはまるで村全体が彼を警告しているかのようだった。

初めはその音を気のせいだと思った。
だが、次第にそれが現実であることを認識した。
血の気が引き、心臓が早鐘のように鳴り響く。
周囲を見回すと、どこからともなく影が動いているのを感じた。
懐中電灯を持っていたが、光が照らす先には、ただの木々と荒れた屋敷ばかりだった。

健太は自分を奮い立たせ、村を奥へと進んでいった。
途中、古い神社の廃墟に出くわす。
そこにはかつての祭りを祝った名残が残されていたが、そのすべては時の流れと共に忘れ去られてしまったようだった。
「割れたお面」のように、神社の装飾は朽ち果て、見るも無惨な状態だった。

そのとき、彼の心に「未解決の怨念」があり、その感覚は強まっていった。
「この村には何かがいる」と彼は直感した。
神社の前で立ち止まり、何かが起こるのを待ち受ける。
彼はその瞬間、耳元で小さな声を聞いた。
「お前もここに留まるのか…」

振り返ると、誰もいないはずの神社の影が動いていた。
冷たい汗が背中を流れ、心の中に恐怖が広がる。
彼は動けずにいたが、同時に何かを理解しなければならないという思いも湧き上がってきた。
その影はまるで彼を誘うかのように、確実に彼の側へと近づいてきている。

衝撃を受けた瞬間、健太は自分が来るべきではなかった場所にいることを知った。
そして、怨念の塊が彼の周りを取り囲む。
しかし、健太の決意は揺るがなかった。
「私はこの村の運命を知りたい」と心に決め、そのまま影に向かって手を差し出した。
すると、一瞬のうちに影が彼の中に入り込み、彼の心の奥底に封じ込められた悲しみや恨みの感情が渦を巻いた。
この瞬間、村の真実が彼の視野の中に映し出された。

それは、かつてこの村で起こった悲劇の物語だった。
村人たちはおぞましい出来事に関与し、それが原因で命を落とした者たちの恨みが、今もなお残り続けているのだった。
そして、健太はその怨念の一部を受け入れてしまったことを悟った。
一度この村に踏み込んだことで、もはや逃れることはできないのだと理解した。

その瞬間、すべての音が消えた。
周囲が静まり返り、ただ一つの「軋む」声だけが響いている。
彼の心に、村の運命が宿った。
健太は立ち上がり、村を後にすることは叶わないまま、彼自身がこの村を守る者となった。
何が起こったのかは忘れ去られていくが、彼の存在はこの村に刻まれていくのだ。

日常に戻ることはできず、彼の心にはこの村の呪縛が永遠に残り続けた。
それは彼が求めていた真実だったが、その代償は決して安くはなかった。

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