「未練の木、解き放たれし魂」

夜の静けさが広がる森の中、ひと際大きな木が立っていた。
その木は地元の人々から「魂の宿る木」と呼ばれ、誰もが近寄ろうとはしない場所だった。
木の周りには不気味な伝説があり、かつてこの木の下で命を落とした人々の魂が未練を抱えていると言われていた。

ある晩、若い女性の美香は友人たちと肝試しをするため、その不気味な木の元へやってきた。
彼女は好奇心旺盛で、友人たちが怖がるのを面白がっていた。
美香は真っ暗な森に足を進め、木の前でしばらく立ち尽くることにした。

「なんでこんなところに来るの?怖いじゃん!」と友人の一人が言ったが、美香は笑って「大丈夫、何も起こらないよ」と答えた。
彼女はその木の幹に手を触れ、優しくさすった。
「もしこの木に魂が宿っているなら、私に何かサインを送ってくれるか?」と心の中で呟いた。

瞬間、冷たい風が吹き抜けた。
木の葉がざわめき、まるで彼女の問いかけに応えるかのように揺れた。
美香は驚き、その場を後にしようとしたが、何かが彼女を引き留めるように感じた。
立ち尽くすうちに、その木の下から薄暗い影が立ち上がるのを目にした。

「助けて……」その声はかすかだが、確かに美香の耳に届いた。
彼女は恐怖に戦きながらも、その場を離れることができなかった。
影は次第に形を成し、かつてこの木で命を奪われた少女の姿が浮かび上がった。

「私はここにいる……ずっと。私の魂は帰ることができない。」少女は悲しげに言った。

美香はその言葉に心を痛め、少女の無念を感じた。
「どうして帰れないの?」彼女は思わず問いかけた。

「私がやり残したことがあるから。」少女は目を閉じ、涙を流した。
「この木の下で、私の最後の願いを叶えてくれる人を待っているの。」美香はその言葉を胸に刻んだ。
彼女は自分がその手助けをできるのではないかと考え始めた。

「あなたの願いは何?私にできることがあれば助けるわ。」美香は決意を固め、少女に向かって叫んだ。

少女は目を開き、「私の魂を解き放つためには、私の思い出を他の人に伝えなければならないの。私が生きていた時のことを、誰かに話してほしい。」と告げた。

美香は少女の願いを受け入れ、彼女の記憶を語り始めた。
「私はあなたのことを忘れない。あなたがどんなに美しい夢を見ていたか、どんな希望を抱いていたかを、これからずっと話し続けるから。」そして美香はその晩の出来事をすべて友人たちに話すことを決めた。

翌日、美香は学校で友人たちに肝試しの話をした。
彼女は少女の名前や過去のことを詳しく語り、人々にその悲劇を伝えた。
そのうち、彼女の話は広まり、学校の文化祭でも特別なコーナーを設けて紹介することになった。

その夜、美香は再び「魂の宿る木」の下へ行き、少女に伝えた。
「あなたのことはみんなに話したよ。あなたの思いはもう一度、人々に届けられた。」すると空気が柔らかく揺れ、薄暗い影が美香の前で姿を変えた。

「ありがとう……」少女の声が響いた。
シャッと風が吹き、彼女は笑顔を浮かべながら木の中に吸い込まれていく。

その後、美香は毎年その木の元を訪れ、少女のことを忘れないことを誓った。
そして、彼女の伝えた物語は、やがて多くの人々に語りつがれることとなった。

数年後、美香は街を離れたが、心の中にはいつまでも「魂の宿る木」の話が息づいていた。
それは彼女にとって、ただの怪談ではなく、忘れられない思い出とともに生きる物語であり、魂とともに帰った少女の願いの証であった。

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