「未練の影」

犬が家族の一員として存在することは、私たちにとって日常的な光景だ。
そんな中、北海道のとある小さな町に住む田中家にも、愛犬のコロがいた。
コロは元気いっぱいの柴犬で、田中家にとってかけがえのない存在だった。

しかし、田中家には一つの闇が潜んでいた。
数年前、子どもたちが遊んでいた庭の隅で、老犬の亡骸が見つかったのだ。
その犬は、田中家が引っ越してくる前に住んでいた住人の飼い犬だった。
近所の人々は、その犬がどのようにして亡くなったのかを知っていた。
ある者は事故だと、別の者は病気だと語り、その話は村中に広がっていた。
しかし、真実は誰にも分からなかった。

それから数ヶ月、田中家はコロと共に穏やかな日々を送っていた。
しかし、冬に突入すると異変が起き始めた。
夜になると、コロが吠えるようになったのだ。
特に、庭の隅を指さしながら吠えるのだ。
田中さんは最初、コロが見えないものに反応しているのだと思っていたが、次第にその吠え方は執拗になり、止まらなくなった。

ある晩、田中さんは眠れずに庭を見つめていた。
冷たい空気の中、コロの吠える声が響いていた。
その時、ふと気配を感じ、視線を向けると、暗闇の中から何かがこちらを見返している。
田中さんは心臓が高鳴り、慌ててコロを抱き寄せた。

その数日後、田中さんは家族を集め、コロの異常行動について話し合った。
「何かがここにいるのかもしれない」と恐れを込めて彼は言った。
家族は黙って頷き、冷たい不安が家中を包んだ。

翌日の夕方、田中家は決意を固め、近所の人に話を聞くことにした。
すると、あるおばあさんが驚くべきことを語った。
「その亡犬はね、あの場所に埋められていて、まだこの世に未練があるんじゃろう。だからこそ、コロが反応しているんじゃ」と言った。
おばあさんの言葉は、田中家の心に重くのしかかった。

その夜、田中さんはコロを連れて庭に出た。
静けさに包まれた空気の中で、コロは以前にも増して吠え続けていた。
田中さんは勇気を振り絞り、亡犬を埋めた場所に近づいていった。
「ごめんね、亡犬。あなたも愛されたかったの?」と心の中で呟く。
すると、コロは急に吠えるのをやめ、静かになった。

その瞬間、田中さんの目の前に白い影が現れた。
それは失われた亡犬の姿だった。
影は優しく田中さんに近づき、少しだけ寄り添うように見えた。
しかし、その存在は決して安心感を与えるものではなかった。
田中さんは背筋が凍る思いをしながら、その場から逃げ出した。

次の日、田中さんは再び家族を集めた。
「私たちの家に祟りがあるのかも」と言った。
家族は怯え、夜になると庭には決して出られなくなった。
コロは次第におとなしくなり、家の中で丸まることが多くなった。

冬が去り、春が訪れた頃、田中さんは決意した。
未練を残した亡犬の供養をすることだ。
家族で協力し、亡犬を埋めた場所に花を飾り、手を合わせた。
その後、コロはゆっくりと穏やかさを取り戻し、夜が静かになった。

田中さんはその後、何度も亡犬のことを思い出すことがあったが、コロの存在を通じて、ペットが家族であることの大切さを改めて実感した。
その日から、田中家はコロと共に穏やかに暮らしていくのだった。

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