夏のある夜、長い間忘れられていた村が、曇った月明かりの中、静まり返っていた。
その村の名は「ネ村」。
ここには、過去に生きた人々の望みを叶えるとされる「望の碑」があると噂されていた。
しかし、その碑には悪名高い歴史があるとされ、村の人々は決して近づこうとしなかった。
村に住む中学生の健太は、昨年母を病で亡くした。
彼は母が生前に語った「望の碑」の話を思い出し、もう一度母に会うことを心底望んでいた。
ある晩、友人の美咲とともに、健太はその望の碑を訪れようと決意した。
「どうせ噂だろ、行ってみようよ」と健太は言ったが、美咲はその提案に不安を抱いていた。
「でも、近づくのは危険かもしれない…」
夜の帳が下りると、二人は懐中電灯を手にして村の外れへと向かっていった。
やがて、目の前に朽ち果てた碑が姿を現した。
健太は恐る恐るその碑に近づき、ここで願いを込めることにした。
「お母さん、もう一度会いたい」と心の中で強く思った。
その瞬間、碑から不気味な震えが走り、周囲の空気が重たく感じられた。
健太は耳鳴りを感じ、美咲を見つめた。
「何か…変だよ」と彼は呟いた。
美咲は「戻ろうよ!やっぱりこの場所はおかしい」と言い出したが、健太は彼女の手を引いて碑の前に立ち続けた。
「お願い、母さんに会えますように。」その願いが通じたのか、突如として曇っていた空が晴れ、月明かりが碑を照らし出した。
目の前で驚くべきことが起きた。
碑の前に立つ影が、徐々に明らかになっていく。
まさにそこには、彼の母の姿が浮かび上がっていた。
「健太、どうしてここに…?」母は柔らかな声で呼びかけた。
健太は驚きと感激で胸が高鳴り、どう言葉を続けていいのか分からなかった。
「お母さん、ずっと会いたかった…」彼は涙を流しながら、母に近づこうとした、その時、美咲が恐怖から逃げ出した。
「健太、駄目だ!戻って!」と叫びながら、彼女はその場から走り去った。
むしろ母は微笑んで、「あなたが望んでくれたから、私はここに現れた。でも、この場所には約束があるの。」と告げた。
「約束?」健太は不安を感じた。
「もし私に会いたいのなら、何かを失わなければいけない。」その言葉に心が重く沈むのを感じた。
「私は、あなたに何も失ってほしくない」と健太は強く反論したが、その瞬間、母の顔が悲しみにくれ、4変わり、まるで石のように固まってしまった。
何が起きているのか理解できず、健太は混乱に陥った。
その瞬間、健太の視界が歪み、そこに美咲の姿が映った。
彼女もまた、碑に近づいている。
「美咲、戻って!」健太は叫んだが、美咲はすでに碑に手を触れていた。
「健太!私も一緒に会いたい…私もあなたのお母さんに…」しかし、その瞬間、美咲が石のように固まり、彼女もまた望みの代償となってしまった。
悲劇的な現実を理解したとき、健太は絶望に包まれていた。
「お母さん、なんで?」健太は泣き叫びながら、ただ碑にすがりついた。
「私たちの望みは、一緒には叶わない。」母の声が空気の中に漂い、健太はその場に崩れ落ちた。
望の碑は、彼に取り返しのつかない代償を強いたのだ。
朝が訪れ、月明かりは消えた。
何も知らずに村人たちが起きてくる時間がやってきていた。
しかし、その場所にはただの静寂が広がり、健太は自らの望みが導いた悲劇の中に残されていた。
彼はただ翌日を待ち続けるしかなかった。
もう一度、母と美咲に会うための望みが、果たされることは決してなかった。