「月明かりの妖鬼道」

夜、静まり返った山道を歩くと、月明かりが薄暗い森を照らし出していた。
その道はかつて、村人たちが通う主要な道であり、今でも時折通行人の姿が見られることもあるが、最近では人影が少なくなっていた。
誰もが口にしない、妖が出るという噂が広まり、人々はその道を避けるようになっていた。

しかし、好奇心旺盛な若者たちは、そんな噂に逆らい、夜の道を選ぶことがあった。
ある晩、友人の淳、真司、そして由紀は、肝試しにその道を訪れた。
彼らは、かつての賑わいを思い出しながら、大笑いしながら進んでいった。

やがて、彼らの前に妖が現れた。
それは美しい女性の姿をした妖であり、長い黒髪が月明かりにさらさらと光り、白い着物が彼女の存在をさらに際立たせていた。
彼女は微笑みながら、呪文のような言葉を口にした。
「私に従って来れば、あなたには特別な体験を与えてあげる。」

淳と真司はその言葉に魅了され、一歩ずつ妖に近づいていく。
だが、由紀は恐れを感じ、その場から離れようとした。
だが、妖の視線が彼女に向けられたとき、まるで彼女の心が見透かされているかのように、強い吸引力を感じた。
「あなたも一緒に来なさい。さもなくば、一生この道に囚われることになる。」妖の言葉は、まるで呪いのように響いた。

「行かない!君たち、待って!」由紀は叫んだが、淳と真司はその誘惑に抗えず、妖の後についていった。
どんどんと深い森の中へと入っていく。
由紀は、二人の背中を追いかけようとしたが、何かが彼女を止めた。
道が急に霧に包まれ、視界がゼロになったのだ。

焦りながら、由紀はその場を離れ、別の道を探そうとした。
やがて、彼女の耳に何かが聞こえた。
楽しげに笑う声と、美しいメロディー。
彼女はそれに引き寄せられ、足を進めると、知っているはずのない場所へと導かれていた。

ようやく聞こえてきた音の源にたどり着くと、そこには淳と真司が座っていた。
そして、その周りにはたくさんの妖たちが集まり、踊りを踊っていた。
彼らの目は輝き、まるで生き生きとした別世界にいるかのようだった。

「恐ろしいことだ。戻らなければ!」由紀は彼らに声をかけようとしたが、声が届かない。
まるで、彼女は幻に縛られているかのようだった。
そのとき、妖が彼女の背後に現れた。
「あなたも一緒に踊りなさい。あなたも彼らの仲間になれるのよ。」

由紀は恐怖で怯え、振り返ることもできなかった。
二人は楽しく歌い、踊り続けていた。
自分がその場にいる意味が見当たらず、彼女の心の中にはある冷たい感情が渦巻いていた。
自分がいるべき場所ではないという切ない思い…。

「私を助けて!」由紀は声を振り絞った。
瞬間、妖の目が彼女を見た。
その目には暗い森の影が映っているかのように、深い闇が宿っていた。
「あなたの心が招いたのよ。彼らが選んだのは、自らの自由という背信なのだから。」

由紀は思わず足を止めた。
後に残された二人は、もう戻れないのだと悟った。
誘われた彼らは、妖と共に新たな運命に満ちた存在となり、道に縛られていくのだ。

その夜、道に残されたのは、ただの霧だけ。
真司と淳、そして由紀は、道の奥で交じり合った世界で永遠の時を過ごすことになった。
道はひっそりと、また一つの物語が消えていくのを見届けていた。

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