深夜、薄暗い公園に一人の少年、浩二がいた。
彼の住む町では、毎年決まってこの時期、不思議な現象が起こると噂されていた。
特に満月の夜、どこからともなく現れる「声」にまつわる恐ろしい話が多く語られるのだ。
浩二は友人にその話を聞かされ、好奇心が湧き上がった。
彼はその声を確かめるために、友人達を誘ったが、みんな怖がって断った。
結局、浩二は一人で公園に赴くことにした。
月明かりが静かに照らす中、彼は心臓の鼓動を感じながら、ベンチに座り込んだ。
時が過ぎ、静寂が辺りを包み、月が高く昇る頃、浩二の耳に微かな声が聞こえた。
「浩二、浩二…」その声はまるで自分の名前を呼んでいるようで、彼はぞっとした。
この公園には誰もいないはずなのに。
彼は声のする方向を見つめた。
暗闇の中から、人影がゆっくりと姿を現した。
その姿は、まるで儚い霧のように薄っすらとした女性。
彼女は一際美しい顔立ちをしていたが、その瞳は深い闇を映し出していた。
浩二は恐怖で動けなくなったが、彼女に引き寄せられるように近づいていった。
「あなたは…誰？」彼が声を震わせて尋ねると、彼女は微笑みながらこう言った。
「私は真理。あなたにお願いがあるの。」
真理の声は甘く、だがどこか切なさを感じさせた。
浩二はますます興味を抱き、彼女に誘導されるまま、公園の奥へと進んだ。
そこで彼は、古ぼけた小さな池を見つけた。
水面は静かで、月の光が揺らめいていた。
真理は、池のほとりに立ち、そっと水面を指で撫でる。
「私には、この池に隠された秘密があるの。浩二、あなたにはそれを見つけてほしい。」
彼女の言葉に浩二は戸惑った。
だが、彼は真理の目を見つめ、何かに引き込まれるような感覚を覚えた。
池の水面を見つめると、一瞬映し出されたのは、彼の知らない過去の光景だった。
そこには、自分と同じように少年時代の自分が、水辺で遊ぶ姿があった。
だが次の瞬間、その影は黒い霧に飲み込まれてしまった。
浩二は恐怖に震えた。
「何が起きたの…？」
真理は悲しげに微笑み、言葉を続けた。
「この池には、私たちの過去が封じ込められているの。あなたはその一部なのよ。」
浩二は彼女の言葉を理解することができなかったが、恐怖に駆られ、後ずさりした。
今、彼は逃げた方がいいと本能が言っていた。
その瞬間、池の水面が波立ち、大きな渦が現れた。
真理の姿が徐々に崩れ、彼女の顔に何か悲しげな影が浮かび上がった。
「逃げないで、浩二。あなたは選ばれたの。私を助けて…」その言葉が、浩二の心に刻まれた。
恐怖から目を背けようとしても、池の水面には真理の姿が映り続けていた。
彼は逃げ出そうとしたが、身体が動かない。
まるでその場に縛り付けられているかのようだった。
浩二の心の中で、彼女の言葉が反響する。
「あなたもこの池に、過去の一部として吸い込まれてしまう…」
その時、浩二は決意した。
真理もまた、何かを背負った存在であることに気づき、彼女を助けるために力を尽くすと。
彼はその手を伸ばし、「あなたを助ける！」と叫んだ。
だが、真理の姿はさらに崩れ去り、夜の闇に飲み込まれた。
浩二はその場を離れることを選び、無我夢中で公園を出た。
振り返ることもできず、ただ走り続けた。
翌朝、彼は公園の近くの人々にその話をしたが、誰も信じなかった。
そして彼は、真理の声が夜ごとに彼を呼ぶのを感じた。
自分の選択が何を意味するのか、果たして彼女を助けることができるのか。
時が過ぎるにつれ、浩二はその答えを見つけるために、再び公園を訪れざるを得なかった。
彼の心の中に深く刻まれた声は、今も彼を呼び続けていた。
