深い森の奥、隠れた場所にある小さな村。
その村には、昔から語り継がれる不思議な伝説があった。
「月夜の晩にだけ姿を現す、子供の霊たちがいる」と。
彼らは楽しげに遊びながら、森の中で迷った者たちを呼び寄せるのだという。
ある夜、村の少年、健太は友達と肝試しに出かけることに決めた。
彼らは皆、村の伝説を知っていた。
怖い話を聞きながらも、森の中を進んでいくうちに、興奮とともに不安が混じっていく。
荒れた木々の間からは月の光が差し込み、ささやく風の音が、一層不気味さを増していた。
「もうすぐだ、あの隠れ場所に着くぞ」と友人の一人、雅樹が言った。
健太は恐る恐る頷きながら、少し先を見つめた。
木の根に足を取られ、彼らは一瞬つまずく。
その瞬間、彼の耳に何か信じられない音が聞こえてきた。
それは、子供たちの笑い声だった。
最初は風の音かと思ったが、実際には近くから聞こえているように感じた。
「聞こえるか?笑い声だ!」健太は驚きの声を上げる。
しかし、友達の表情は一斉にこわばり、何かに気がついたようだった。
「花梨、戻ろう」と雅樹が言った。
女の子の花梨は、すぐに立ち上がる。
だが、健太はその音に引き込まれるように立ち尽くしてしまった。
友人たちはもう少し進んでから戻ろうと話していたが、健太は何かに導かれるような感覚を抱いていたのだ。
音の方へ歩み寄ると、健太は目の前に小さな隠れ場所を見つけた。
そこには、かすかな光とともに、数人の子供たちが楽しそうに遊んでいる姿が見えた。
笑い声を上げているその子供たちは、どこか異様で、目が虚ろだった。
「遊ぼう!」一人が健太に声をかける。
だが、その瞬間、彼はわかってしまった。
この子供たちは生きているものではない。
村の伝説が言っていた霊たちだったのだ。
健太は急に恐怖を感じ、後ろを振り返った。
友人たちは、彼を心配そうに見つめていた。
「健太、どうしたの?」花梨が叫んだ。
その声に我に返った健太は、彼らのところを目指して逃げ始めた。
だが、耳にはまだ彼らの笑い声が響いている。
彼は早足で進むが、その足音は彼一人だけのものではないように感じた。
「逃げろ!あいつらが追ってくる!」健太は叫ぶが、友人たちの顔は次第に薄れ、見えなくなってしまう。
森の中は濃い闇に包まれ、進めど進めど道は見えなかった。
背後から聞こえる笑い声は近づき、彼は全速力で走り続けた。
だが、振り返る余裕もない。
その夜、月は高く照らし、森は静まり返っていた。
村の人々は、健太が戻らなかったことを心配し、森を探しに出かけた。
しかし、彼の姿はもうどこにも見つからなかった。
彼は永遠にその隠れた場所の中で、子供たちと共に遊びつづけることになるのだと、村の者たちは恐れをもって囁いた。
そして、今夜も、月夜となり、森の中には笑い声が響いている。
健太の名前が風に乗ってささやかれ、彼は新たな友達に囲まれながら、どこか遠くで遊んでいるのだろう。
逃げ出そうとする者は、次第にその音に引き寄せられ、隠れた場所へと導かれていくのである。