「月の会と失われた記憶」

彼女の名前は木村美紀。
美紀は小さな町の片隅にある古びたアパートに一人住んでいた。
彼女は大学生で、いつも勉強に忙しく、友人たちとの交流も控えめだった。
しかし、月が明るく照らす夜になると、美紀の心には奇妙な感情が芽生えた。
それは孤独でありながら、どこか懐かしい温もりを感じるものであった。

ある夜、美紀は図書館で友人に誘われ、星空の下でのオフ会に参加することになった。
初めて参加したその会は、同じように勉強に取り組む学生たちにとって、ストレスの発散でもあった。
幾つかのキャンプファイヤーがともされ、彼らは交代で怖い話を語り始めた。

「月が満ちた夜、私の友達が失踪した話をしようと思う」と、話し始めたのは佐藤という男だった。
彼の目は月明かりに照らされ、光を反射していた。

話によると、彼の友人は毎月、特定の夜にだけ現れる「月の会」に参加していたという。
それは、誰もが知る伝説的な集まりで、参加者は自らの秘密や恐ろしい体験を語り合う場所だった。
しかし、その夜に参加した者は必ず何かを失う運命にあった。
友人は興味をそそられ、参加することに決めたが、その後、彼は消息を絶ってしまった。

その伝説を聞くにつれ、美紀の心は鼓動を速めた。
月に照らされたその夜、何かが彼女を引き寄せるように感じた。
月の会は本当に存在するのだろうか?そして、もし存在するのなら、失ったものを取り戻したいという好奇心が彼女の心に灯った。

数日後、美紀は勇気を奮い起こし、自ら月の会に参加することを決意した。
彼女はその集まりの噂をたどり、薄暗い公園のベンチに座っていると、様々な人々が集まってきた。
彼女は彼らがどのようにしてこの場所に辿り着いたのかを知りたかったが、皆、一様に影を背負ったような辛い表情を浮かべていた。

月が高く昇ると、彼らは円になって座り始めた。
初めは誰も話すことはなかったが、その内の一人が恐る恐る言い始めた。
「失ったものを語る場として、この会が存在している」。
その言葉が周囲に波紋を広げ、美紀も自らの心の奥底をさらけ出した。
「私には、かつて親友がいました。でも、彼女は突然、事故で亡くなってしまった。私は、そのことをずっと心の中に抱えている…」彼女は涙を流しながら話した。

周囲の人々は静かに頷き、自らの失ったものを語っていった。
失った家族、愛した人、夢など、様々な秘密が夜空の下で明かされていく。
しかし、話が進むにつれて、美紀は何かが変わってきたと感じた。
彼女の周りにいる参加者たちの顔がどんどんぼやけていき、暗闇に飲み込まれるように見えてしまったのだ。
まるで彼らの存在が月の光の中で失われていくようだった。

周囲の温もりが薄れていくにつれ、美紀は怖れを覚え、逃げ出したい衝動に駆られた。
彼女がピンと来た瞬間、円の中心から不気味な声が響いた。
「忘れたままで、私を思い出させてはくれないのか?」その声に誘われるように、美紀は振り返り、真っ直ぐな視線を向けた。
そこには、失われた親友の姿が見えた。

「美紀…あなたは私を忘れたの?」その問いかけに、美紀は思わず震えた。
美紀は自分が心の奥に押し込めていた罪悪感や後悔を思い出した。
友人の存在を思い出させずにいたのは、彼女自身の心の防衛だった。
美紀は何かを失ったことを直視し、涙を流した。
「ごめん…美咲。私はあなたを忘れようとしたけれど、心の奥ではずっとあなたを思っていた…」

その瞬間、月の光が強く照らされると、彼女の目の前で美咲の姿は次第に薄れていった。
そして、周囲の人々も一斉に消えていき、その場に残ったのは月明かりの中、美紀一人だけだった。
彼女は振り向くことすらできず、ただ呆然とした。

結局、美紀は月の会に参加したことによって、他の参加者たちと同じように何かを失った。
彼女は自らの過去を再び受け入れることに決め、希望と再会の思いを胸に、静かに暗闇の中へ消えていった。
その夜、月は明るく輝き続けていた。

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