「暗闇に潜む羽根」

彼女の名前は梨花。
大学生活を送る彼女は、友達と一緒に街の片隅にある舞台に足を運んだ。
その舞台は、普段は誰も見向きもしないような古びた劇場で、裏方のスタッフの手によって運営されていた。
彼女たちはその舞台の稽古を手伝うことになり、ワクワクしながらその場所を訪れた。

梨花たちが舞台に入ると、場内は異様な静けさに包まれていた。
不気味なまでの静寂に気が引けるものの、彼女たちは笑顔を絶やさず作業を始めた。
しかし、おどろおどろしい雰囲気を持つ舞台装置の近くには、無数の鳥の羽根が散乱していた。
まるで、何かがそこに住んでいたかのようだった。

その日の作業を終えた帰り道、梨花は友人たちに聞いた。
「この劇場、なんか不気味じゃない?」友達の一人が言った。
「うん、特にあの羽根…。」彼女たちの間には、言葉にはしづらい恐怖が漂い始めていた。

数日後、梨花はふとした瞬間、舞台の周りで見たこともない大きな鳥が彼女を追いかけてくる夢を見た。
その鳥は漆黒の羽根を持ち、目はまるで炎のように赤く輝いていた。
夢の中で追い詰められ、彼女は不安と恐怖に苛まれた。
目が覚めた時、彼女の心にその光景が焼きついて離れなかった。

仕事が進むにつれて、梨花は度々その鳥の夢に悩まされるようになった。
友人たちも同様に、怨念のような存在感に取り憑かれている気がした。
ある晩、舞台の準備が終わり、彼女たちが帰ろうとしたとき、急に窓が開き、冷たい風が舞台内に流れ込んできた。
どこからか、彼女たちの耳元に囁くような声が聞こえた。
「おいで、ここにまだいるよ。」

恐怖に駆られた梨花は、舞台をさっさと出ようとしたが、逃げようとするたびに何かに捕まっているような感覚に襲われた。
心臓が高鳴る中、彼女は周囲を見回し、誰もいないことに気づいた。
友達はどこに行ったのか、すっかり姿を消してしまっていた。

不安が募る中、梨花は真実に気づいた。
彼女がこの劇場の場所を「避け」ようとしているのに、実はその鳥の影が彼女を「追い」続けていたのだ。
彼女はその境界に閉じ込められ、まるで罠にかかっているかのようだった。
俯いた時、彼女の足元に散らばった羽根が、まさに彼女が訪れた時からそこにあったことを思い出した。

舞台の後ろへ進むにつれ、黒い影が迫ってくる感覚がした。
思わず振り向くと、大きな鳥が彼女の目の前に立ちはだかっていた。
その目は揺るぎない意志を持つようで、まるで梨花に対する強い恨みや未練を表しているかのようだった。

「おいで、梨花…」

その瞬間、彼女は自分がこの劇場で何か恐ろしい秘密に巻き込まれてしまったことを理解した。
それを知っているのは、あの消えてしまった友人たちだったのかもしれない。

鳥は再び彼女に迫り、梨花は絶望感の中で必死に逃げ惑った。
彼女はその場から逃げ出すことができなければ、永遠にその屋敷の惨劇に引き込まれる羽目に陥るのではないかと感じた。
心の奥で何かを叫びながら、再び舞台へと足を踏み入れざるを得なくなった。

銃声のような痛みを感じた瞬間、舞台の真ん中にはかつての友人たちがその顔を隠したまま、何かに囚われている姿が見えた。
「助けて…私たちを!」梨花は息を呑み、彼女もまたその中に取り込まれていくのを感じた。

すべては彼女の眼前で崩れ落ち、梨花はもう逃げることができないことを悟った。
彼女が最初に舞台に来た時から、彼女自身がこの街の恐怖の「罠」にすっかり取り込まれてしまっていた。
彼女の心が静かに闇に呑み込まれていく中、舞台の暗闇が彼女の存在を見えないものとして消していった。

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