「暗闇に揺れる光」

豪雪に覆われたある冬の夜、村の外れにひっそりとたたずむ古びた寺。
一人の師が、その寺で瞑想をしていた。
名を貴之という彼は、長い髪をたばね、静かな佇まいで知られていたが、彼に宿る不思議な力は村人たちの間で語り草となっていた。

貴之は、時折見えない存在と対話をするかのように、一人で瞑想を続けていた。
彼の言葉には、誰もが直面することのない「存」のテーマが織り込まれていた。
彼が探し続けているのは、亡き師の残した教えに隠された真実だったのだ。
それは、彼自身の存在の本質を問うものであった。

ある冬の日、貴之は寺の外、雪に覆われた静寂な境内を歩いていた。
その時、ふと視界の端に、かすかな光が動くのを見つける。
光は、まるで誰かが前方を指し示しているかのように揺らめいていた。
興味を持った貴之は、光の正体を確かめるためにその方向へと進んだ。

道すがら、彼は幾度もあの光が彼を呼び寄せている気がした。
もしかしたら、あの光の先に、師が残した教えが待っているのかもしれない。
貴之は、心の中で強くその想いを抱きしめながら、光の発する不思議な力に導かれるように歩みを進めた。

だが、その瞬間、雪が突然崩れ落ち、貴之は思わず足をすくわれる。
無防備に落ちた彼の目の前には、異様な空間が広がっていた。
そこは、まるで現実から切り取られたような場所で、周囲は暗闇に包まれており、崩れかけた壁や扉が見え隠れしていた。

貴之は恐怖に包まれるも、同時にその場の異様な魅力に引き寄せられる。
彼の心の中には、探し続けた「存」が目の前にあるように感じた。
暗闇の中、何かが彼を呼んでいる。
そして、その呼び声に導かれるかのように、貴之はゆっくりと崩れかけた扉へと向かった。

その瞬間、彼は「そこに何があるのか」という問いを自分に投げかけていた。
どこか懐かしい気持ちを抱きながら、彼は扉を押し開いた。
すると、目の前には自分に似た姿の人影が立っていた。
その姿は、まるで彼が探し求めていた「自分自身」のようだった。

その人影は、壊れたかのように崩れかけ、みるみる内に消えていく。
貴之は震えながらその姿を見つめた。
「あなたは誰?」と問いかけるも、返ってきたのは静寂だけだった。
しかし、その瞬間、彼の心に強烈な感覚が走った。
自分の存在が、この世界の片隅で求められているのだと。

目の前の影が崩れていくにつれ、貴之もまた、自分が何を探し求めていたのかを理解し始める。
「私は、自分を知りたかった。でも、それはただの存在にしか過ぎなかった。」彼は自分に語りかけていた。

その時、寺の庭から届いた風の音が、彼に気づかせる。
暗闇の中で彼が探していたものは、他でもない、自分自身の存在だった。
貴之は深い安堵を感じ、心が軽くなったように感じた。

寺へと戻る道すがら、強い決意と共に彼は思った。
自分を知ること、それは時に周囲を崩すことにも繋がる。
しかし、崩れた先には新たな存在が待っているのだと。
それを学んだことに、貴之は心から感謝した。
穏やかな雪の中、彼は今後も自身の内側を探求し続けていくことを心に決めたのだった。

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