「時間の縁」

ある静かな村の片隅に、古びた屋が立っていた。
その屋は、村人たちの記憶から次第に忘れ去られ、ほとんど誰も近づくことがなくなっていた。
子供たちはその屋を「幽霊屋敷」と呼び、近寄ることを恐れていたが、好奇心旺盛な童の小林俊雄だけは、運動会の帰り道にその屋の前を通るたびに心を惹かれていた。

ある午後、俊雄は友達と遊んだ帰り道に、一人でその屋の前に立ちすくんでいた。
外観は朽ち果て、窓は割れ、屋根は崩れかけている。
しかし何かが彼をその屋の中へと引き寄せていた。
思い切って扉を開けると、ぎしぎしと音を立てながら、誰もいない空間に足を踏み入れた。

室内は薄暗く、まるで時が止まったかのようだった。
古い家具やほこりをかぶったおもちゃが散乱し、まるで何かを失ったかのような寂しさが漂っていた。
俊雄はしばらくその空間を興味深げに見回していると、文机の上に置かれた古い写真立てに目が留まった。
中には、見たことのない少女の写真が収められていた。
その少女は微笑んでおり、どこか親しみを感じる顔立ちをしていた。

気づけば、俊雄の背後で静かな声がした。
「遊びに来たの?」振り向くと、目の前には写真の少女が、まるで生きているかのように立っていた。
彼女の名前は美咲という。
美咲は俊雄の手を取り、屋の奥へ消えていった。
俊雄は恐怖よりも好奇心が勝り、そのまま彼女についていくことにした。

美咲は俊雄を信じられない場所へと導いた。
そこは、過去の思い出が映し出される不思議な空間だった。
屋の奥には奇妙な模様の壁があり、触れると瞬時に彼の目の前に様々な光景が現れた。
そこには美咲が遊んでいる子供たちの姿や、彼と同じような笑顔を浮かべる彼女の家族の姿が映し出され、次第に彼女の過去が明らかになっていった。

だが、その光景は少しずつ変わり始め、屋が崩壊するように思えた。
「もう帰ってきてはいけない。私の時が壊れてしまうから…」美咲の言葉はけれども俊雄にはよく理解できず、彼はただ動けずに立ち尽くすしかなかった。
時間が流れるたびに、彼と美咲の間の縁が次第に変わっていくのが感じられた。

その夜、俊雄は夢の中で再び美咲に出会った。
「私の時間を返して。私を忘れないで」彼女はそう告げた。
俊雄は悲しみを感じ、彼女の心の叫びを受け止めることを決意した。
「絶対に忘れない。ただ、縁を繋ごう」彼は心の中で叫んだ。
目が覚めたとき、彼は不思議な感覚に包まれていた。

後日、俊雄は村に帰ると家族や友達に美咲のことを話した。
しかし、誰も彼女のことを知っている者はいなかった。
驚くべきことに、俊雄は彼女の存在を感じ続け、時には周りの人々にもその影響が見え始めた。
彼の心の中で美咲との縁が繋がったのだ。

年月が経ち、俊雄は大人になり、村の伝説として美咲の話を人々に語るようになった。
そして、不意に訪れる夜、彼は再び屋に足を運ぶ決心をした。
そこには、まだ彼を待っている美咲の微笑みがあった。
彼女との縁が時を越え、俊雄の心の中で生き続けることを、彼は誇りに思った。
夢のような過去は、今も彼に深い結びつきを与え、美咲の存在は永遠に輝き続けるのだった。

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