渋谷のとある街角で、令和の繁華街がいつもとは違う異様な雰囲気をまとっていた。
人々が行き交う中、ひときわ大きな時計台がぼんやりと光を放ち、その影が地面に長く伸びている。
それは「計」と名付けられた、新しい建物の上にある時計台だった。
なぜなら、この街には「時間」を操る噂が広まっていたからだ。
主人公の佐藤隆志は、日々忙しく働くサラリーマンだ。
彼は、愛する家族のために必死に働き続け、その生活はまさに「時間に追われている」ようなものだった。
だが、彼には一つの悔いがあった。
それは、幼い頃からの親友である密との関係だ。
密は彼にとって、特別な存在だったが、仕事に追われる日々の中で次第に連絡を絶ってしまっていたのだ。
ある晩、隆志は仕事帰りにふと彼の思い出を振り返った。
「密、今頃どうしているんだろう」と。
そこで彼は、密が住んでいたアパートへ足を向けることにした。
道を進んで行くうちに、隆志の心に不安がよぎった。
ふと見ると、時計台が異常に大きく見え、その光に吸い寄せられるように彼は街を進んでいった。
時間の流れが徐々に遅く感じる中、隆志の周囲の人々は次第に消えていき、誰もいない静けさの中に取り残されてしまった。
彼は、異様な感覚に焦りを覚え、「ここはどこだ?」と呟いた。
ふと目に映ったのは、薄暗い路地の奥にある小さな居酒屋だった。
「密、いるのか?」
その瞬間、居酒屋の扉が大きな音を立てて開いた。
そこには、まるで彼を待っていたかのように、密が笑顔で立っていた。
長い間のブランクを感じさせない爽やかな表情に、隆志は心が弾んだ。
「久しぶりだな、隆志!」と密は言い、隆志を中に招き入れた。
居酒屋の中は、心地よい温もりと共に時間が止まったかのように感じられた。
二人は久しぶりの再会を喜びながら、懐かしい思い出話に花を咲かせた。
しかし、話が進むにつれ、何か不気味なものを感じた。
密が語る話の中には、どこか哀しみや後悔が滲み出ているのだ。
「お前、実は俺のことを忘れていたんじゃないか?」密の言葉に隆志は固まった。
「何を言ってるんだ、そんなことはないよ!」と彼は必死に否定したが、心の奥底では真実を感じ取っていた。
密との距離がどれだけ広がっていたのか、彼の無関心がどれほどの悲劇を生んでいたのかを。
気づけば、居酒屋の壁には、彼の目がだんだんと剥がれていくように、周囲の景色が変わっていった。
隆志は恐怖に襲われ、「これが‘え’の正体なのか?」と心の中で叫んだ。
密の姿がどんどん薄れていき、彼は次第に見知らぬ場所へと引きずり込まれていく。
それは、隆志が密に対して見せた無関心の化身だった。
彼の心の奥に潜む「悔」が、彼の周りを取り囲む温かさを奪ってしまったのだ。
「待ってくれ、密!私はお前を忘れたわけじゃない!」と叫ぶが、声は虚しく響くだけだった。
「代償は払わなければならない、隆志」と密の声が耳に届いた。
彼は、友を失うという大きな代償に苦しむことで、時間の流れのおかしさを理解させられた。
彼の心に深い痛みが刻まれ、「これが私が流した時間の結末か?」と呟いた。
次の瞬間、隆志は街に戻り、周囲に人々が行き交う光景を見た。
だが、彼の心には素晴らしい思い出が一つも残っていなかった。
密との友情は失われ、彼の中に残るのは深い悔いだけだった。
「時間は二度と戻らない」と彼は知ることとなった。