「時の罠に閉じ込められて」

夜、月明かりが薄く館の内部を照らし出す中、私たちは慎重にその古びた館の中に足を踏み入れた。
建物は何年も放置されているようで、埃に覆われた家具やひび割れた壁が不気味な雰囲気を醸し出している。
この館には「時を操る罠」と呼ばれる恐ろしい現象が存在すると言われ、私たちのような好奇心旺盛な者が集まってくるのだ。

館の奥に向かって進むと、次第に静寂が増していく。
まるで館全体が我々の来訪を待ち受けているかのようだった。
そして、ある部屋の扉を見つけた。
扉には古びた錠前が掛かり、薄暗い室内の気配が漏れている。
共に来ていた友人の一人が「ここに何かがある」と言い、扉を開けようとした瞬間、周囲の時間が歪んだように感じた。

その瞬間、梁から何かが落ちてきて、間一髪で友人は避けることができたが、見上げた先には、まるでこちらを見つめるかのような影があった。
影は人の形をしているが、輪郭がぼんやりとしており、視線を合わせることができない。
しかし、私は確かにその影が「時間」という言葉をささやいたのを聞いた。

時間がゆっくりと流れる感覚に襲われ、館全体が変わり始めた。
友人たちに声をかけようとしたが、声は出ない。
まるで館が我々を罠にかけて、時間を固定しているかのようだった。
数分前に進んだはずなのに、時計の針は全く進まない。
心拍数が上がり、恐怖が身体を蝕んでいった。

「戻ろう」という声が遠くから聞こえたが、その声の主は誰だったのか思い出せない。
戸惑いながらも、私たちは再び動き出すことにした。
しかし、館の各部屋にはさらなる罠が潜んでいた。
扉を開けるたびに、異なる時代の景色が広がり、同じ部屋のはずなのに、まるで異次元と繋がっているような錯覚を覚えた。

一つの部屋では、明治時代の衣服を着た人々が踊っている情景が広がり、次の扉を開けると、それは戦国時代の戦場に変わっていた。
時間がどこかで交差していることを実感させる。
仲間との距離が次第に開き、どこにいるかすら分からなくなっていく。
私一人だけが取り残されているような感じがした。

恐怖心が極限まで高まり、館から逃げ出そうとしたが、全ての出口が消え、どう逃げるべきかわからなくなっていた。
その時、再びあの影が現れた。
私を見つめている。
逃げたい、助けてほしい、その感情が交錯する中、影は静かに首を振った。

「時間は逃げない、逃げられない」と、再びささやく。
無限の時が私を取り囲むように感じ、私は罠にはまったような気がした。
この館は単なる建物ではない。
古代の秘密を抱えた時の存続そのものであり、私たちをその中に閉じ込めてしまったのだ。

最後に、何かが私の背中を押した。
気がつくと、私は元の場所に戻っていた。
仲間たちはどこにもいない。
ただ、静まり返った館の中で、一人だけ突出した時間の流れの中に取り残されている。
心のどこかで、あの影が私を覗き込んでいる気配を感じながら、再び深淵の中に迷い込むことを恐れた。

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