夏のある日、佐藤は友人たちと一緒に肝試しに出かけることにした。
彼らが選んだのは、町外れにある古びた神社だった。
地元では、その神社にまつわる噂が絶えず語り継がれていた。
「その神社に足を踏み入れた者は、時の流れを感じることができず、永遠にその場に留まる」というものだった。
友人たちは興奮しつつも、どこか不気味さを感じていた。
サイレンのような風の音が響く中、佐藤は神社の境内に入った。
すると、突然、周りの景色が歪み始め、彼の視界がぼやけていく。
「なんだ、これ?」と呟いた佐藤の耳に、かすかに誰かの声が届いた。
「ここに来てはいけない…」その声は、まるで彼の心に直接語りかけるかのようだった。
友人たちが彼に呼びかける声が遠のいていく。
佐藤はその場に立ち尽くし、時が止まったかのように感じた。
周囲の時間だけが静止しているかのようだ。
「何かが起こっている…」佐藤の心に不安が広がる。
気がつくと、彼は一人ぼっちになっていた。
周囲には誰もいない。
ただ、神社の奥から微かに光る何かが見えた。
好奇心にかられた佐藤は、その光に向かって歩き出した。
歩くほどに、彼の心臓は高鳴った。
まるで、何かに導かれるようにその場所に近づいていく。
その光の先には、古びたお社があった。
お社の前には、数枚の古い和紙が散らばっていた。
彼はその一枚を拾い上げ、詞のようなものを読み上げた。
「目覚めよ、ここにいる者たちよ。」その瞬間、彼の周りが急に冷たくなり、何かが彼の背後から近づいてくる気配を感じた。
「ああ…」彼は振り返ることができず、ただ立ち尽くしていた。
その時、彼の心にある強烈な悲しみが押し寄せてきた。
何かが彼を取り巻き、声が聞こえた。
「私を助けて…」その声は、さまざまな過去の記憶を呼び覚ますようだった。
「助けて…?」佐藤は言葉を探すが、口から出たのはただの震えた声だった。
そこには、彼と同じように迷い込んだかつての人々の姿が浮かんでいる。
彼らは時の流れに閉じ込められ、永遠にその場所から抜け出せずにいたのだ。
その瞬間、彼の目の前に一人の女性が現れた。
彼女は涙を流しながら佐藤に言った。
「私も助けを求めた。でも、何もできなかった…あなたも、同じ運命を辿るの?」彼女の言葉に、佐藤は恐怖と無力感を感じた。
「いけない、戻らなければ…友人たちが待っている!」そう思い、佐藤は急いでその場を離れようとした。
しかし、足は動かず、まるで地面に縛られているかのようだった。
「あなたも時の界に閉じ込められるのよ!逃げられないの!」彼女の絶望的な叫びが響く。
佐藤は必死で振りほどこうとするが、次第に頭の中が真っ白になり、意識が遠のいていく。
その時、頭の中に突然、力強い記憶が蘇った。
それは幼い頃に遊んだ、友人たちとの楽しい思い出だった。
彼らの笑顔、楽しさ、あの日の無邪気さが胸を打った。
「行くぞ、絶対に抜け出す…!」佐藤は自分自身を奮い立たせ、強い意思を持ってその場を離れることを決意した。
最後に振り返ると、彼女の悲しい目が彼を見つめていた。
佐藤はその目を忘れずに、神社を後にし、友人たちの元に戻ることができた。
しかし、彼の心の中には、時の流れに染み込んだ無数の思い出が残り、今でもその神社の中に閉じ込められている者たちのことを思い続けているのだった。