「時の狭間に消えた声」

陽は大学生で、友人たちと共に都市伝説を探求することを趣味としていた。
彼はある日、友人の健一から興味深い話を聞いた。
「電に関する話って知ってる?あの電力会社の古い伝説。そこに行くと、時が戻ることがあるんだって」。

興味がそそられた陽は、早速健一と友人の美咲を誘って、噂の場所へ向かうことにした。
電力会社の古い施設は、今では使われていない荒れ果てた建物となり、運営されていた頃の面影は消えつつあった。
友人たちは、そこが本当に「時」を遡る場所なのかを確かめるために、陽についてきた。

夕方になり、薄暗くなったころ、彼らは廃墟に到着した。
ドアは錆びついており、少しの力で開けることができた。
中に入ると、かすかな電灯が点滅していた。
その明かりに照らされると、周りの壁には古くなった電気メーターや、かつての設備がほこりをかぶっていた。

「ここ、雰囲気がすごいね…。」美咲は不安げに言った。
「本当に何か起こるのかな?」

陽は自信満々に答えた。
「たぶん、何もないよ。ただの噂さ。」しかし、心の片隅では、もしこの場所で本当に何かが起きたらどうしようという不安が広がっていった。

彼らはしばらく中を探索していたが、突如としてスイッチを見つけた。
「これ、試してみよう!」陽は興奮し、スイッチを入れた。
すると、周囲の空気が一瞬変わったように感じた。
電灯は一斉に点滅し、強い光が彼らを包み込んだ。

その瞬間、彼らはかすかな声を聞いた。
「戻れ…時を…戻れ…」声は不明瞭で、近くにいるはずの美咲にも全く聞こえていないようだった。

「何か聞こえた?」陽は周りを見渡した。
しかし、友人たちは何も気づいていない様子だ。
ただ、健一は背筋をぞくぞくさせて、「ここにいるの、やめようよ…」と恐怖を滲ませた。

陽は無理に笑顔を作ったが、彼の心にも恐怖が広がっていた。
「大丈夫、まだ何も起きていないし、ただの噂なんだ。」

しかし、その後、周囲の光景が急に変わり始めた。
目の前には、彼らがかつて学生の頃に見た教室の風景が広がった。
陽は驚愕し、健一と美咲を振り返った。
「これは一体…?」

「もしかして…私たち、時間を遡ったのかもしれない!」健一の声は震えていた。
陽は否定しようとしたが、恐れが彼を支配していた。
周囲の風景は確かに懐かしいもので、教室での楽しい日々が頭に浮かんできた。

だが、次の瞬間、教室の中に異様な静けさが訪れた。
生徒たちの姿は見えず、陽たちだけがその場にいる。
突然、教壇に立つ誰かが現れた。
顔は見えなかったが、彼らの心に不安な感覚をもたらした。
「戻れ…時を…戻れ…」その声はさっきの声と同じだった。

陽は恐怖のあまり後ずさりした。
「帰らなくちゃ、早く戻らないと…!」彼は友人たちを引っ張り、静まり返った教室から一目散に逃げ出した。

やっとのことで外に出ると、周囲は元の廃墟の姿に戻っていた。
今までの教室が幻だったのか、それともこの世界が一瞬遡ったのか、彼には分からなかった。
ただ、彼らが戻ってこれたことが幸運だと感じた。

「これ、もう二度と来ない方がいいね…」美咲がつぶやいた。
陽はうなずいた。
しかし、心の中で感じる不安は消えなかった。
そこにあった「時」を遡る力が、彼らの中に残っているような気がした。
陽は今後のことを考えつつ、廃墟の影を背に歩き出した。
彼が触れたのは、何かとても恐ろしい現象だったのだろう。

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