深夜の街は静まり返っていた。
時刻は午前2時。
小さな公園には誰もおらず、月明かりだけが地面を照らしていた。
そんな時、山田は友人の佐藤と一緒に、恐怖の噂を聞きつけてこの公園にやって来た。
彼らは噂に興味を持ち、真相を確かめようと決意したのである。
「こんな時間に、こんな所にいるなんて、正気じゃないよ」と佐藤が不安になりながら言った。
「でも、あの噂を聞いてみたくないか?ここで起こる現象が、本当に実在するかどうかを確認しようよ」と山田が笑いながら応えた。
その噂とは、公園の近くに住むという「謎の少女」についてだった。
彼女は時折、夜中にだけ現れ、声をかけてくるという。
しかし、アプローチしてしまった者は二度と元の世界には戻れないと言われていた。
彼らは冗談半分でこの話をしながら、恐怖心を薄めようと努めていた。
公園の中心に到着すると、突然、周囲がかすかにざわめき始めた。
風がなくても、どこからともなく耳に入ってくる囁き声。
その声は、次第に大きくなり、周囲の空気が重く感じられるようになった。
「まさか、本当に……」と佐藤が言い掛けたとき、彼らの前に現れたのは、白いドレスを着た少女だった。
彼女の顔は薄暗がりの中でも不気味に白く、微笑みながら近づいてくる。
「遊びに来たの?」少女が柔らかい声で訊ねた。
「私と一緒に、時の彼方へ行きませんか?」彼女の言葉に、心の奥にある恐怖感が掻き立てられる。
山田は一瞬、彼女に引き寄せられるような感覚を覚え、一歩前に出てしまった。
「待って、行っちゃダメだ!」佐藤は慌てて叫び、山田を引き止めようとしたが、彼の声は少女の囁きにかき消される。
少女はそのまま、山田の手を優しく引いて、彼を公園の奥へと導いていった。
「あなたも時の旅人になりたいの?私はずっと待っていたの」と少女は言った。
時が止まったような感覚が広がり、周囲の景色が歪んで見えた。
公園の木々は黒く影が伸び、空には星も見えなくなっていた。
「もう帰れない……」佐藤は急に恐怖を感じ、彼女を引き剥がそうとする。
しかし、彼は身体が動かず、心だけが焦っている。
山田はいつの間にか、少女の目の前に立っていた。
彼は心の奥で何かが弾ける音を感じ、回答を迫られている。
少女は優雅に微笑みながら、「時の彼方には、あなたの夢が待っているよ。さあ、一緒に行こう」と誘った。
まるで彼女の目に吸い込まれていくような感覚が山田を襲った。
だが佐藤は最後の力を振り絞り、大声で叫んだ。
「山田、やめろ!それはただの罠だ!」その言葉が、間違いなく山田の心に響いた。
「この少女は……ただの幻想で、君を奪おうとしている!」
その瞬間、彼女の微笑みが消え、周囲の景色が激しく揺れた。
まるで暗闇から引き剥がされるように、山田は現実へと引き戻された。
佐藤は強く山田の腕をつかみ、そのまま公園の外へと引きずり出した。
公園の出口にたどり着いた時、振り返ると少女はただの影のように消えていた。
彼らはその後、一切の言葉を交わさず、走るようにその場を離れた。
あの日から時折、彼らは公園のことを思い出す。
しかし、決してあの少女の声を聞くことはなかった。
誰の耳にも届かないその声は、いまだに彼らの記憶の中で微かに残っている。
時の向こうに、今もなお彼女は存在しているのかもしれない。