美しい村、春花村は問題を抱えていた。
古くからこの村には、「流しの巫女」と呼ばれる美しい女性が住んでいた。
その巫女は村の守り神とされ、毎年春に行われる大祭では、村人たちが彼女に感謝を捧げていた。
しかし、ある年、大祭の夜、巫女は姿を消した。
美しい神楽の舞が終わった途端、彼女は雲のように消えてしまったのだ。
村人たちは彼女の行方を捜したが、跡形もなく消えた彼女の姿を見つけることはできなかった。
時が流れ、村の風景も変わり、新たな時代を迎えた。
しかし、巫女の行方を気にする者は少なかった。
彼女が消えた年から、春花村では不思議な現象が起こるようになった。
村の奥にある古い神社近くでは、毎年春になると立ち込める靄の中に、女性の笑い声が響くようになったのである。
村人たちは恐れおののき、その神社には近づかないようにした。
新しい村長の菜々子は、村にまた美しい巫女の姿を取り戻したいと考えていた。
彼女は村の歴史を研究し、巫女が残したという「祭りの守り」を探し続けていた。
ある夜、彼女は神社の奥に隠された祭りの守りの伝説を知った。
それは、村を取り戻すために、もう一度巫女を呼び戻す必要があるということだった。
菜々子は村の若者たちを集め、春祭りを再び行うことを決意した。
彼女は「流しの巫女の舞」を復活させ、村人たちを呼び寄せた。
春の気配が漂う中、大祭がうまく進んでいくと思われたが、ふと気づくと、村には恐怖が漂っていた。
周りの人々の顔は白く、誰もが不安げな表情をしていた。
祭りの夜、菜々子は村人たちの後ろで巫女の舞を踊り始めた。
しかし、その瞬間、村の周りに立ち込めた靄がより一層濃くなり、恐怖が急速に高まった。
「彼女が帰ってくる…」という噂が村人たちの耳を駆け巡り、恐れで震え上がった。
そして、間もなく巫女の姿が靄の中に現れた。
彼女は美しい、だがその表情にはどこか冷たさがあった。
「私を呼んだのは、誰だ?」巫女の声が響き渡ると、菜々子は息を呑んだ。
彼女の心は躍ったが、同時に恐れにも包まれた。
巫女は村の中心を見渡し、そしてその視線が菜々子に向いた。
「私を再びこの地に戻したいのか?」彼女の問いかけに、菜々子は震えながら頷いた。
しかし、巫女は続けた。
「この地を再生させるには、代償が必要だ。美しく生まれ変わる代わりに、何か大切なものを差し出さねばならぬ。」村人たちはその言葉に怯え、恐れのため息を漏らした。
そして、巫女は「選ぶがいい、あなたたちの新たな道のために、何を失うのか」と告げた。
菜々子は困惑していた。
しかし、彼女は村を守るため、心の奥底から自らの命を差し出す覚悟を決めた。
「私の命を、村のために捧げます。」彼女の宣言が村に響くと、周囲の靄が渦を巻き、巫女の姿が光り輝くものへと変わっていった。
その瞬間、村は温かく満たされた。
長年の恐れや不安が消え去り、春花村は再び輝きを取り戻した。
しかし、菜々子の姿はそこになかった。
彼女が最後に見た光は、今でも村人たちの記憶に残っている。
「彼女が私たちを救ってくれた。彼女の命が、村を再生させた。」それ以来、村では菜々子の伝説が語り継がれている。
しかし、春が来るたびに、巫女の美しい笑い声と共に、菜々子の影が神社の周りにひっそりと佇んでいるのではないかと思う村人たちもまだいる。
彼女が選んだ道は、永遠に美しい村に寄り添うものとなったのだ。