土砂降りの雨が続くある晩、田部田恵子はいつもと変わらぬ日常を送っていた。
家族はそれぞれ仕事や学校へ行き、彼女一人だけが自宅で静かな時間を過ごしていた。
そんな中、ふと彼女の目に留まったのは、古ぼけたテレビだった。
何年も使っていなかったが、興味本位でスイッチを入れてみる。
画面には何も映っていない。
ただの黒い画面。
が、その瞬間、奇妙な声が耳に飛び込んできた。
「放っておけ」と。
そして画面がパッと点灯したかと思うと、彼女の視線を奪う映像が映し出された。
そこで見たのは、見知らぬ部屋の映像。
白い壁にかかる時計、薄暗い光の中で、何かが一瞬映り込んだ。
気になった恵子は画面に近づく。
しかし、その映像は彼女が住むマンションではないはずだった。
実際、彼女はそこへ行ったこともないし、誰も住んでいる気配もない。
しかし、映像の中の部屋は、まるで彼女を呼ぶように感じた。
不気味だが、何故か彼女はそこで何かを見たいと思った。
その夜、彼女は頭の中にひとつの考えが浮かんだ。
自分が見た部屋が本当に存在するのか、そしてその正体を確かめるために、実際にその場所に行ってみようと。
恵子は翌日、地図を片手に出かけた。
行き着いた先には、全く予想外の景色が広がっていた。
古びた、一見廃墟のように見える建物だった。
柵に囲まれたこの場所に、まるで時間が止まったかのような不気味さが漂っている。
周囲の静けさが不審さを増し、恵子は身を慎ませながら中へと進んだ。
その建物の中は、想像以上に暗く、冷たい風が吹き抜ける。
彼女が声を出すと、自分の声が心細く響いた。
すると、「帰れ」と言う声が響き渡る。
驚き、振り向くも誰もいない。
その声は涼しげで、何かとても重い意思を感じさせる。
ひとしきり探索してみたが、結局確かめられることはなかった。
ただ、何かに壊されてしまったような廃墟と、誰も住んでいなかったことだけが明らかだった。
そしてその晩、再び古いテレビがちらつき、見覚えのある部屋の映像が映し出された。
彼女はその直後、はっと気づく。
この映像は、彼女の見た「廃墟」そのものであった。
気がつくと、画面の中に自分の姿が映っているではないか。
まるで自分がその場にいるかのようだ。
心の奥底が冷たくなる。
そこにいる自分の目が、どこか寂しげに見え、無表情で何かを待っている。
再び、「放っておけ」という声が響く。
恵子は恐怖で身動きが取れなくなった。
視線が自分の背後にさっと向けられた瞬間、後ろの何かが視界に飛び込んできて、彼女は絶叫しながらその場を逃げ出した。
家に戻った彼女は、あの映像と声が耳から離れない。
毎晩のように同じ映像を繰り返し見ることになった。
次第に周囲との連絡は断たれ、日常は崩壊していく。
誰かが彼女を取り込もうとしているのかもしれない。
恐ろしさを抱えながら、彼女は何度も映像を拒否しようと試みるが、結果的にはその声の指示に従うことに。
気がつけば、彼女の生活はすべて「壊・放・帰」と結びつき、その影響で彼女自身も分からないうちに、元の生活に帰れない存在になってしまった。
そして、もう一度深い闇の中から声が響き渡る。
「次はあなたの番」