「映し出された影」

修は東京の片隅にある古ぼけたアパートに住んでいた。
夜になると、周囲は静まり返り、唯一の音は彼の部屋から漏れる音楽だけだ。
彼の趣味は映像制作で、日々、自作のショートフィルムを撮影し、編集していた。
しかし、ある晩、彼が編集作業に没頭していた時、異変が起きたのだ。

その晩、修は長時間机に向かい、疲労感が募っていた。
彼は何度も編集ソフトの画面を見つめ、音声を調整する手を止められなかった。
画面には、彼が数日前に撮影した映像が映し出されていた。
それは友人たちとの楽しいひとときを記録したもので、笑い声や笑顔があふれていた。
だが、映像の中に違和感を覚える瞬間があった。
ある友人の後ろに、白い影がちらりと映り込んでいたのだ。

修はその影を無視し、映像を完成させた。
しかし、眠気が続き、彼はそのままベッドに横になった。
翌朝目を覚ますと、彼の心には妙な不安が漂っていた。
それは、昨晩の映像の影が頭から離れないためだった。
そこで修は改めて映像を確認することにした。

けれども、映像を再生すると、友人の後ろにいた白い影が、明らかに近づいているように見えた。
彼は背筋が寒くなり、心臓が早鐘のように鳴り響くのを感じた。
その影は、まるで彼を見つめているかのようだ。
思わず映像を停止し、深呼吸をしようとするが、不安が膨らんでくる。

彼はその映像が何かを伝えようとしているのか、それとも彼を脅かすためのものであるのかを考えた。
日を重ねるごとに影は気味が悪くなり、彼の周囲の人々の様子も変わっていった。
そう、影はただの映像ではなく、彼の身近な人々に影響を及ぼしていることに気が付いたのだ。

ある晩、友人の一人である中村が急に自宅で彼を訪ねてきた。
中村は異常なほど苦しそうな表情を浮かべ、目の周囲には疲労の跡があった。
修が理由を聞くと、中村はぼそりと呟いた。
「最近、夢の中で誰かが私を見つめているんだ。あの影みたいに…」

その言葉が修を恐怖に陥れた。
彼は自分が撮影した映像の中に映っていた影が、現実世界にも干渉しているのではないかと、直感的に感じた。
彼はその影が自分や友人たちを堕落させ、犠牲にしているのではないのかという考えが頭をよぎった。

友情のため、修は映像を消去する決意を固めた。
しかし、その晩、再び映像を開くと呆然とした。
映像は彼の手をすり抜け、「子供たちが遊ぶエリア」と題された不穏な光景に変わっていた。
無邪気な子供たちが映されているが、その後ろには白い影が子供たちに忍び寄っているのだった。

恐怖に駆られ、彼はその映像を消すことを考えたが、一歩も動けない。
影は自分の意志を持っており、彼が逃げことができないようにしがみついているようだった。
彼は自分の堕落と犠牲の選択肢を知ることとなり、身動きが取れないまま映像の終焉を迎えた。

友人たちと映像の影に取り込まれていく。
修はその瞬間、影に呑まれる覚悟を決め、消去ボタンを押した。
しかし、それは遅すぎた。
彼の周囲は暗闇に包まれ、響くのは彼の絶叫のみ。
影は堕ちた先に待つものを選び、彼を引きずり込んだ。

それからというもの、修の姿は誰の目にも映らなくなった。
失われた映像と共に、彼の存在すらも消え去ったのだった。
影に取り込まれた彼の心は、永遠にその映像の中で彷徨い続けるしかなかった。

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