九州の小さな村に、古びた民宿があった。
この民宿は、代々村に住む家族が営んできたが、最近では訪れる客も少なくなっていた。
その理由は、宿泊した客が「映」に関する不思議な現象を体験することが続いていたからだ。
村人たちはそのことをひそかに語り合い、旅人には触れないようにしていた。
その民宿に、大学生の佐藤健太と彼の友人である中村真理が訪れた。
健太は怖い話が好きで、特に心霊スポットとして名高いこの民宿に興味を持ったのだった。
真理はそんな彼に付き添う形で、一緒に心霊体験を楽しもうと決めた。
夜が深まり、民宿の周辺は静まり返った。
2人は宿の奥に積まれた古い本を見つけ、その中に「映」という現象の記述を見つける。
「映」とは、見えない存在が人や物に姿を映し出してしまう現象だという。
特にこの民宿では、過去の宿泊者が体験した恐怖が記されていた。
彼らは興味津々でその話を読み進めた。
「これって本当なのかな」と真理は不安げに口にした。
「試してみない?」と健太は高揚した声で返した。
彼はこの体験が自分たちにとって刺激的なものであると同時に、何か特別なものを知る機会になると感じたのだ。
その夜、2人は宿の中の一室に移動し、一緒に座って真剣に「映」について語り合った。
ふと、部屋の窓の外から何かが視界に入る。
健太が立ち上がり、窓の外を覗くと、薄暗い庭の中に、ぼんやりとした影があることに気づいた。
「あれ、見えた?」健太が振り返ると、真理は恐怖に満ちた顔で頷いていた。
その後、彼らはすぐに部屋に戻ることにしたが、影はずっと庭の中を彷徨っているようで、時折こちらを見つめているようにも感じた。
暖かいはずの室内が急にヒヤリと冷たくなり、2人の心臓は鼓動を速める。
明るい光を求めて部屋の電気をつけるが、影の正体は分からなかった。
翌日、健太は「映」の現象について調べるため、宿の主人に話を聞くことにした。
主人は、過去に宿泊した客の中に「希」という名の女性がいたことを語った。
彼女は村で事故に遭い、宿を訪れた日の夜に失踪したという。
村人たちは彼女の訪問を、村に襲う呪いの始まりだと信じていた。
その夜、再び健太と真理はあの部屋で過ごすことに決めた。
彼らは日記を手に取り、「希」について書かれたことを読みあさり、彼女の足跡を追い始めた。
やがて、真理は居心地の悪さを感じ、「あの影が気になる」と言い出した。
「私、感じるの。不安を抱えているような…」健太は無視することにしたが、心の中では彼女の言葉の真意を理解していた。
そして、一晩が過ぎた。
そんな朝方、健太は夢の中で「映」の現象が起きていることを体験する。
不気味な影が彼を見つめ、彼の内なる思いを映し出してくる。
彼はその影に振り回され、解決策を探るために必死に抵抗しようとした。
しかし、彼にはどうにもできなかった。
見えない存在は彼の心の奥深くに眠る「償い」の感情を探り、その存在感を増していた。
健太は気が付くと、自分の罪を背負っていることに思い至る。
人を傷つけたこと、それを償おうとしなかったこと。
彼はその思いが形となって現れることを知った。
「希」の影がその思いを映しているのだと。
目が覚めた健太は、すぐに真理を呼びつけた。
彼女はすでに心配して待っていた。
「大丈夫?」と問いかける真理に、健太は希望を持って言った。
「このままじゃいけない、あの影に立ち向かわなきゃ」と。
二人は決意を固め、村の人々に告げられた「希」の話を基に、彼女の償いを手伝うための行動を始めた。
それは、彼女の思い出を生かすための儀式だった。
その影は彼らの前から消えることはなかったが、彼らは奮闘し、その思いを受け止め、無情な宿命に立ち向かうことができた。
「映」が彼らの日常から消えることはなかったが、彼らはそのことを恐れずに受け入れ、少しずつ変わっていった。
心の奥にあった「償」の感情が表に出たことで、彼らは見えない影影と共存することができたのだ。