「星影の囚人」

夜空に輝く星々が、いつもと変わらぬように散りばめられている。
そんなある晩、大学生の天野亮介は、サークルの仲間たちと山の中腹にあるキャンプ場にいた。
彼らは、星空観察を楽しむために集まったのだが、薄暗い森に包まれたその場所には、神秘的で不気味な雰囲気が漂っていた。

周囲には他のキャンパーも見えず、静寂だけが彼らを包んでいた。
亮介たちは明るい焚き火を囲みながら、他愛もない会話を楽しんでいたが、次第に夜が深まるにつれて、彼らの笑い声は少しずつ消えていった。
あまりの静けさに、亮介は肌にゾクッとくるような恐怖を感じ始めた。

そんなとき、彼の友人である翔太がふと口を開いた。
「ねえ、君たち、ここには古い伝説があるのを知ってる?」興味を引かれた他のメンバーは、彼の話を聞くことにした。
翔太は、彼が聞いた話を語り始めた。

「この山には、昔、旅立った人々が戻れないという言い伝えがあるんだ。それは、遠くから来た者がなおも望みを抱いてここに留まり、結局引き留められてしまうというもの。その人たちは、影のように存在することになり、生きたままこの場所に縛られてしまうんだ。」

その話を聞いて、景子が冗談交じりに言った。
「じゃあ、もし戻れなくなったら、どうなるの?」他のメンバーは笑ったが、亮介の心には重いものがのしかかった。
友人たちの笑い声が遠くに感じられ、彼は気持ちが沈んでいくのを自覚した。

やがて、星々が瞬き始め、完全に夜が訪れた。
亮介は、仕切り直しに外に出てみることにした。
ひんやりとした夜の空気が彼の頬をなで、静けさが周りを包み込んでいた。
亮介は、静寂の中にどこか醜いものが潜んでいるような気配を感じた。

ドキドキしながら山道を進むと、木々の間隙から、遠くに微かに青い光が見えた。
それは、まるで誰かがそこにいるかのような不気味な輝きだった。
亮介は不安を抱えつつ、近づいていく。
心臓の鼓動がどんどん速くなり、気がつけば、その光の正体に辿り着いていた。

そこには、他のキャンパーたちが集まっていると思われる場所があった。
しかし、近づいて見ると、彼らは顔がひっそりと黒く潰れていて、生気が感じられなかった。
亮介は、思わず後ずさった。
その瞬間、彼の周囲の風が急に止まり、彼の背後に冷たい影が迫ってくるのを感じた。

かすかな声が耳元で囁いた。
「帰りたくないのか?」亮介は恐怖に満ちた心境で振り返ったが、そこには何もいなかった。
彼は再び、暗いキャンプ場へ駆け戻った。
戻る途中、だんだんと彼の足元が重くなっていく感覚がした。

キャンプ場に戻ると、友人たちはもはや焚き火の周りにいなかった。
見ると、彼らがいつの間にか妙に離れた場所で立ちすくんでおり、まるで何かに導かれているかのようだった。
亮介が叫ぶと、不安そうな顔で振り返るが、その表情にはかすかな死の影が見えた。

「亮介、こっちだ!」翔太が手を伸ばすが、その声はどこか冷たく響いた。
亮介は恐怖に駆られて彼らに近づくが、次第に彼の思考が混乱し、身体が重く感じられた。
何かが彼をここに囚えようとし、彼は無限の堂々巡りに巻き込まれていく。
焦りと恐怖の中、彼は彼らの手を掴もうとするが、彼らはまるで姿を消したかのように、薄れていく。

その時、耳元でかすかに聞こえた声が再び彼に囁いた。
「いつまでも、戻れない。」亮介の背後には、かつてこの地にいた人々の影が現れていた。
彼は逃げようとしたが、もはや動くことができず、その場に立ち尽くしてしまった。
彼の記憶の中には、友人たちの笑顔と、今なお光り輝く星々が残ったままだった。

次の日、キャンプ場を訪れた人々は、亮介の姿を見つけることはできなかったが、そこにいた空気だけが異様に重く、静けさの中に響く波音がいつもよりも哀しげに聞こえた。
誰も気づかなかったが、彼の影はすでに、永遠にこの地に根付いていたのだ。

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