奥深い山の中にある、小さな村のはずれに、古びた神社があった。
村人たちはその神社を敬い、訪れることは少なかったが、特に新月の夜には誰も近寄らなかった。
彼らはその神社に隠された秘密を知っていたからだ。
若い男、健太は、都会からこの村に引っ越してきたばかりだった。
彼は静かな生活を望んでいたが、神社の噂を聞くたびに興味をそそられていた。
村人たちが恐れるその場所には、何か特別なものが隠されているのではないかと感じていたのだ。
ある晩、月明かりの下、健太は神社へ向かう決意を固めた。
神社に着くと、暗闇を背景にした古い鳥居が彼を迎えた。
厳かな雰囲気に包まれ、周囲は静まり返っている。
彼は緊張を感じながら、一歩一歩神社の奥へ進んでいった。
境内に到着すると、まるで時が止まったかのような静けさが広がっていた。
突然、風が吹き、枝がざわめくと、何かの声がかすかに聞こえた。
「帰れ…帰れ…」その声はまるで背後から響いてくるかのようだった。
健太は驚き、振り返ったが、誰もいなかった。
それでも、彼は好奇心を押さえきれず、さらに奥へ進むことにした。
薄暗い本殿の前に立つと、彼は一瞬、恐怖心が芽生えた。
扉の隙間から、微かな光が漏れ出ていたのだ。
思わずその光に引き寄せられ、彼は扉を開けることにした。
扉がぎいと音を立てて開くと、中には古い神具やお札が散乱しており、異様な気配が漂っていた。
しかし、彼の目を引いたのは、壁にかけられた一つの絵だった。
それは何世代も前の村の人々が描いたものであり、中央には神社の姿、その周りには村人たちの笑顔が描かれていた。
しかし、その絵には見えない異様な点があった。
絵の中の人々の目が視線を向けているように感じられるのだ。
さらに目を凝らすと、健太は絵の横に、古びた日記が置かれているのに気づいた。
彼はそれを手に取り、ページをめくり始めた。
日記には、神社がかつては村人たちの幸福を守るための場所であったこと、しかしある日、神社の権能を妬む者が現れ、事故を引き起こし、多くの恨みが山となったことが記されていた。
そして、その後、毎年新月の夜には、死者の霊が神社に集まり、村人たちに不幸をもたらすと書かれていた。
健太は恐怖で息を呑んだ。
その時、日記の最後のページには「私たちの思念が今もこの界に留まっている。新しい者が来るたび、我々は再び語りかけるのだ…」と記されていた。
その瞬間、背後からまた声が聞こえた。
「助けて…私たちの思念を…」健太は恐れを感じ、急いで後ろを振り返った。
今度は彼の目の前に、かつての村人たちの姿が浮かび上がっていた。
彼らは無表情で、悲しみに満ちた目で彼を見つめていた。
その表情には、彼らが解放されたいという強い願いが込められていた。
「助けてほしいのか?」と健太は取り乱しながら尋ねた。
すると、村人たちの声が重なり合い、強く彼を包み込むように響いた。
「我々はこの界に留まり続け、次の者を待つ…あなたも同じ運命だ!」
恐怖に駆られた健太は、何とかその場から逃げ出そうとしたが、体が動かない。
彼の心の中に漠然とした恐れが渦巻く。
かつての村人たちが繋がった思念に、彼は取り込まれ、深い闇の中に引きずり込まれていった。
新月の夜、神社の奥で、健太の悲鳴が響き渡る。
その声はやがて静寂に包まれ、村人たちの思念は新たな者を神社に導く準備を整えていた。
そして、奥の神社は再び、恐れられる場所として村人たちの記憶に留まり続けるのだった。