静かな午後、彼女はひとりで近所の園を訪れた。
そこは小さな公園で、緑に囲まれた静寂の空間だった。
鳥のさえずりと木々の葉が風に揺れる音が心地よく響く。
しかし、誰もいない公園には、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
彼女の名前は佐藤由紀、26歳のOLだ。
日常の喧騒を忘れるため、時折この公園に訪れる。
だが、今日は何かが違った。
木陰に座り込み、心を落ち着けるために目を閉じると、いつの間にか意識はうつらうつらとしていった。
ふと音を立てて目を覚ますと、日差しが不自然に暗くなっていた。
周囲を見渡すと、いつの間にか公園には誰もいない。
ただ、目の前には白いベンチがあった。
そのベンチに座る少女の姿が見えた。
髪は長く、白いワンピースを着ている。
彼女は静かにこちらを見ていた。
「あなたは誰?」由紀は思わず声をかけるが、少女は何も答えず、微笑むだけだった。
その瞬間、由紀の体が凍り付いた。
少女は少しずつ、回り込むようにこちらへと歩いてくる。
肌は透き通るように白く、どこか不気味な印象を与える。
由紀は逃げたかったが、体が動かない。
ただ、少女が近づくにつれて、彼女の心の奥底に秘めていた記憶が浮かび上がってきた。
それは、かつての友人と過ごした楽しい日々や、誰かを断ち切らなければならなかった過去の出来事。
思い出すべきではなかった苦い記憶が迫ってきた。
「もう、忘れてしまったの?」少女は耳元で囁くように言った。
その声はまるで彼女自身の声のように感じられ、由紀は心がざわついた。
「その思い出は、あなたを苦しめるだけよ。」少女の瞳は深い闇を含んでおり、由紀は恐れを抱く。
しかし、何かに引き寄せられるように、由紀はその少女に心を開かざるを得なかった。
「行ってしまった人たちを忘れたくない。でも、もう戻れない…」と由紀は呟いた。
少女はその言葉を聞いて微笑む。
そして、手を差し出し、「さあ、思い出して。あなたは必要なものを捨てたの。今こそ、それを取り戻すときよ。」と言った。
由紀は少女の手を取った瞬間、目の前の景色が変わった。
回り込むように移動すると、彼女は自分が幼い頃の遊び場に立っていることに気がついた。
子供たちの声が聞こえ、日差しが心地よい。
だが、周囲には彼女がかつて断ち切った友人たちの姿がなかった。
「彼らはもう戻れないの。」由紀は急に寂しさを感じ、涙が溢れた。
「でも、あなたが私を呼んだ。私は彼らを思い出す、あなたのおかげで。」少女は微笑んで肯定する。
しかし、その微笑みはどこか哀しげで、何かを求めるような目をしていた。
そのとき、由紀は思い出した。
彼女がかつて大切に思っていた友人たちとの楽しい時間と、同時に彼らとの別れがもたらした痛みも。
心のどこかで「断たれた過去」を抱えたままで生きていたことに気づいたのだ。
突然、霧が立ち込め始め、周囲が暗くなった。
少女の姿も徐々に消えていく。
「忘れないで、あなたはひとりじゃない。でも、過去を解き放つことも必要なの。」その言葉が echo のように響き渡ると、彼女の心に安らぎの感覚が広がった。
目を閉じると、すべての笑顔と楽しさが彼女の心に再び帰ってきた。
断ち切るのではなく、思い出として抱え続けていくことが大切だったのだと、由紀は気づく。
ふと目を開けると、そこにはもう少女の姿はなく、ただ静かな公園が広がっていた。
心の痛みを抱えながらも、由紀はその公園を後にした。
彼女は一歩ずつ前に進む決意をした。
過去を忘れ去ることはできないが、それを糧に生きる勇気を手に入れたのだ。