ある地方の小さな村に、温かい家庭を築いた嫁がいた。
彼女の名は美樹。
夫の健二と共に、何不自由ない幸せな生活を送っていた。
しかし、美樹の心にはどこか満たされないものがあった。
優しい夫と穏やかな日々を過ごしているはずなのに、彼女はいつも心の奥に薄暗い影を抱えていた。
ある晩、美樹は夢を見た。
夢の中で、彼女は自分の過去の姿を見つめていた。
若き日の美樹は、無邪気に笑い、友人たちと遊んでいた。
その光景は愛らしく、幸せそのものであったが、その後、彼女の目の前に現れたのは、散った花びらのように、彼女が過去に切り捨てたものたちだった。
それは、彼女の青春を共にした友人たちの姿であり、その笑顔は次第に曇り、悲しみを浮かべるようになった。
「どうして私を忘れたの？」と、夢の中の友人たちが美樹に問いかける。
その言葉は、彼女の心を刺す。
美樹は、過去の仲間たちを捨て、自分の道を選んだことを後悔するようになった。
彼女は心の底から、「償いたい」と願った。
夢から覚めた美樹は、異常なほどの不安感に襲われた。
彼女は昨日までの晴れ晴れとした気持ちが消え、謎の重圧感に耐えられなくなっていた。
美樹は懐かしい友人たちのことを思い出し、彼女らに連絡を取ろうとしたが、時間の流れは彼女を遠ざけていくばかりだった。
次の日、美樹は村の祭りに参加することになった。
色鮮やかな飾り付けや賑やかな音楽に包まれ、村人たちが楽しむ中、美樹は一人、心の中の影に取り憑かれているようだった。
彼女は笑顔を作ろうとしても、どこか不自然な感情がこみ上げてくる。
祭りが終わり、夜が深まる頃、美樹は呼び寄せられるように、村の外れにある古びた神社へと足を向けた。
そこは、過去に友人たちと訪れた場所だったが、今は誰も寄りつかない不気味な雰囲気で包まれていた。
薄暗い境内に立ち、彼女は過去を思い出していた。
「あの時、私は何を選んだのだろう？ 私が選んだ道は、本当に私の選択だったのか？」
その瞬間、神社の奥から声が響いた。
「私を忘れないで、どうか戻ってきて…」まるで風の音のように、しかし明確な形を持ったその声は、彼女の心に突き刺さるようだった。
美樹はまるで操り人形のように、神社の奥へと誘われていった。
何もない暗い空間の中、彼女はかつての友人たちの姿を見つけた。
彼女らの瞳は美樹を追ってきた光のように輝いていたが、それは同時に悲しみと怒りを宿していた。
「何も変わってない、いったい何をしてたの？」と、彼女たちが口を開く。
その瞬間、美樹は彼女たちが自分を求めて集まってきたのだと悟る。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」美樹は涙を流し、悔恨の念に苛まれた。
「もう一度、彼女たちに会いたくて…」その言葉は、彼女の心の底から絞り出された本音だった。
友人たちの姿は次第に薄れていき、美樹は一人、無数の花びらが散るように消えてしまった。
彼女の周りにはただ静寂が残り、彼女の心にはその友人たちの想いが生き続けていた。
美樹の生活は、その後も続いたが、彼女の心にはいつも散った花の香りが漂っていた。
美樹はその香りをかぎ続けながら、後悔の念と共に生きていくことになるだろう。
彼女の心の奥に、封じられた友人たちが永遠に散ってしまったことを。
