「放たれた霊の村」

深い山々に囲まれた村、「着村」。
ここは外界と隔絶された場所で、古くから伝わる伝説が住民たちの心に重くのしかかっていた。
この村には、毎年一晩だけ、恐ろしい現象が起こる「放ち日」が存在する。
その日は誰もが外に出てはいけないとされ、多くの人々は家の中でひっそりと過ごすのが慣例だった。
「放ち日」の夜は、かつて村人たちがある禁忌を破った結果、村のどこかに宿る霊が放たれると言い伝えられていたからだ。

村人の一人、健太はその日を待ち望んでいた。
村の若者たちは、怖いもの見たさから決して立ち入ってはいけないとされる山の奥深くに行くことを計画していた。
仲間の劉と美咲は争うように意見を交わしていたが、健太は外界の恐怖を知らず、興味を惹かれていた。

「ねえ、行こうよ。きっと何か面白いことが起こるよ」と美咲が言った。
彼女は興奮した面持ちで、健太に話しかけてきた。

「でも、本当に大丈夫なのか?村の人たちは行っちゃいけないって言ってるし…」と健太は少し躊躇った。
しかし、彼らの好奇心は健太の躊躇いを上回り、最終的に彼も仲間に加わることになった。

夜が酔いしれるように訪れると、肌寒い空気が村を包んだ。
月は薄雲に隠れ、山の奥への道は闇に飲まれていた。
三人は手をつないで山を登り始めた。
途中、奇妙な視線を感じたが、若者たちは互いに励まし合いながら進んでいった。

山を登るにつれて、風が不気味にうなり始め、何かが彼らの背後で動く気配を感じた。
ふと、健太は立ち止まり、振り返った。
そこには何もなかったが、心の中に不安が広がっていく。
続けて、廃れた小屋を見つけた。
月明かりに照らされた小屋は、まるで人を引き込むかのように立っていた。

「見て、あの小屋!私たち、入ってみようよ!」と美咲が目を輝かせて言った。
健太は再び躊躇ったが、結局好奇心には勝てず、小屋の中に足を踏み入れた。

中には古びた家具や調度品が散乱し、まるで時が止まったかのような場所だった。
しかし、奥の部屋からは微かに声が聞こえてきた。
「放っておいて…」それはかつての声、村の誰かのもののように感じられた。

三人はその声に導かれるように奥へ進んだ。
扉の向こうには一室だけがあり、そこには大小の人形が無造作に置かれていた。
目が合った瞬間、健太は恐怖に駆られた。
人形の一つが、まるで本当の人のように思えたのだ。

背筋が凍る感覚に襲われた健太は、「もう帰ろう!」と叫んだ。
だが、その言葉が発された瞬間、部屋中に冷たい風が吹き抜け、扉が閉まった。

「どうするの?出られないよ!」と劉が怯えた声を上げた。
無情にも、外は完全な闇に包まれ、誰の助けも、村の明かりも届かない場所となってしまった。

「助けて…」と美咲の声が虚空に響く。
彼女の目が恐怖で大きく見開かれ、何かが部屋の中に忍び込もうとしていた。
その時、健太の目の前に現れたのは、声の主である女性の霊だった。
彼女の顔は苦痛に歪んでいた。
彼女はかつて放たれた者たちの一人で、今もなお解放を求めていたのだ。

「私を放っておいて…」彼女は悲しみに満ちた声で呟く。
瞬間、健太の心に疑念と恐怖が渦巻いた。
彼はかつての村人たちが犯した禁忌の果てに、自身がこの運命を絶つことができるのかを考え始めた。

「早くここを出よう!」と言う劉の声が遠のいていく。
三人は逃げるために手を取り合ったが、時既に遅く、霊の力に捕らわれてしまった。
彼らの運命は、過去の村人たちと同じ道を歩むことになるだろう。

「放ち日」は、まるで彼らを待っていたかのように。
深い霧が立ち込め、村は再び静寂に包まれた。
次の日、村の誰もがこの場所の恐ろしさを噂し合い、新たな禁忌と化すのだった。

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