「放たれた人形の囁き」

深夜、静けさに包まれた街を一人歩く佐藤亮は、いつもとは違う不気味な気配を感じていた。
背景には、かつて遊園地だった場所がある。
今は廃墟と化していて、周囲には草が茂り、朽ちた遊具が風に揺れている。
彼は子供の頃、その場所で遊んだ思い出を胸に秘めつつ、この風景を見つめていた。

不意に、亮のスマートフォンが震えた。
画面には友人からのメッセージが表示されていた。
「今、遊園地にいる」と。
ただの冗談だろうと思ったが、すぐに消えるメッセージには異様なものがあった。
「ここにはいるかもしれない」と。
この一文が心の奥に引っかかった。

気になる気持ちを抑えきれず、彼は廃墟へと足を踏み入れた。
草が生い茂る中、かすかな声が聞こえたような気がした。
耳を澄ませると、子供の笑い声が響いている。
亮はその声を追いかけるように進んでいった。
かつての遊具の前に立ち、そこで目にしたのは、薄暗い中で光る何かだった。

近づいてみると、それは古びた人形だった。
黒い髪の毛を持ち、状態は悪いが、どこか親しみを感じる顔立ちをしていた。
亮の心に何かが呼び覚まされるような感覚がした。
ふと、その人形の目が瞬きしたように感じた。
それを見た瞬間、彼の体は固まり、心臓が早鐘のように激しく打ち始めた。

「放っておけない」と思った瞬間、背後から冷たい風が吹いた。
周囲の空気が重く、何かが近づいていることを感じた。
亮は思わず振り返るが、そこには誰もいなかった。
しかし、耳元にささやくような声が響く。
「私を探して」と。
その声が彼を強く引き寄せるような感覚をもたらした。

気づけば、廃墟の奥の方へと進んでいた。
道の先には、陰の中で揺らぐ微かな光が見えた。
そこには、人々の影がうごめいていて、彼らは誰も彼に気づくことなく無表情で動いていた。
その瞬間、亮は別の次元にいるような気がした。
時が止まったかのように、彼の心は不安でいっぱいになり、逃げ出すようにその場を離れた。

しかし、逃げても逃げても、あの女性の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
「魂が解放されていない」と言う言葉が、心の中に響く。
亮はそれがあの人形のことを指しているのだと気づく。
「助けてほしい」と願われているようだった。

勇気を振り絞り、再び最初の遊具の前に戻った。
彼は人形を手にとり、その目を見つめた。
「あなたの魂を解放するために、私はどうしたらいいの?」そう尋ねると、再び冷たい風が吹き、耳元で「逃げられない」と囁かれた。
ついに、亮は自らの運命を理解した。
彼は、解放への道だけが残されていたのだ。

亮は覚悟を決め、古びた人形を高く掲げた。
「あなたの魂を解放する」と叫ぶと同時に、人形の目が激しい光を放った。
何かが彼の中から抜けていく感覚を覚え、その瞬間、周囲の景色がゆがみ始めた。
彼の心の中にあった不安が、光と共に消えていった。

目が覚めると、亮は自宅のベッドの上にいた。
全てが夢だったのだろうか。
だが、そばにはあの人形が置かれていた。
彼はその人形の目を見つめながら、不安と安堵の感情が交錯する。
あの日、彼は運命の扉を開いてしまったのかもしれない。
彼の中にはもう一つの存在が宿ったような気がした。
その瞬間、彼は再び静けさが訪れる街の夜に戻ったのだった。

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