「振り返ると堕ちる影」

中学に新しく転校生がやってきた。
その名は高橋翔。
彼は、どこか神秘的な雰囲気を持っていた。
髪型は少し長めで、真剣な眼差しが印象的だった。
クラスメートたちは、彼のことをすぐに面白がり、さまざまな噂が流れ始めた。
「彼は霊感が強い」とか、「悪霊と交信できる」というものだ。
初めは冗談だと思っていたが、徐々に教室には恐ろしい噂が蔓延し、彼はみんなから距離をおかれるようになった。

翔は、周囲の視線を気にするふうもなく、むしろ興味深そうにしていた。
特に、彼があまりにもクールな態度であるため、周囲が怖れを抱くのも無理はなかった。
ある日、彼が学校に持ってきた古い本が話題になった。
その本には、忌まわしい儀式や悪霊についての記述があり、翔はその本を手に自らの魅力を引き立てているように見えた。

そんなある日、翔が何気なく教室で「振」という言葉を口にした。
その瞬間、教室の雰囲気が一変した。
何かがその言葉に反応しているように感じた。
彼の周りに集まっていたクラスメートたちは、「何のこと?」と疑問を浮かべたが、翔は答えることなくじっと外を見つめた。

数日後、翔はクラスメートたちに不気味な提案をした。
放課後、学校の裏山で集まろうというのだ。
「そこで不思議な振りをして、何かを呼び寄せる」と言った。
彼の言葉には、何かに惹かれるような強い魅力があった。
興味本位で集まったクラスメートたちは、その場にいること自体が妙に快感のように思えてきた。

裏山に集まった夜、彼らは円を作って座り、翔が指示するままに「振り」を始めた。
彼が示す手の動きに従って、クラスメートたちは無心で手を振った。
すると、風が吹き始めた。
影が揺れ、木々がざわざわと揺れる。
その瞬間、空気に異様な緊張が流れ込み、次第に冷たくなっていった。

翔はその様子を楽しむかのように、ますます手を大きく振った。
まるで周囲のものを何かに引き寄せようとしているかのようだった。
彼の姿を見て、クラスメートたちは次第に恐怖を覚え始めた。
「これ、やめようよ」と言う者もいたが、翔は微笑みながら、彼らを無視して振り続けた。

そのうち、彼らの顔に不安が広がっていった。
何かが近づいてくる感覚がしたのだ。
いつの間にか、周囲は静まり返り、彼らの心だけが騒がしい。
そんな中、「何か来てる」と囁く声が聞こえた。
彼らは恐る恐る周囲を見回したが、何も見えなかった。
しかし、翔の顔は驚くべき微笑みを浮かべていた。

そして、そこで信じられない現象が起こる。
風の中に若者たちの声が混ざり、その声はますます高まり、不気味に響き渡った。
恐怖に包まれた彼らは、ついに翔に彼らを連れてここに呼び寄せたものが、何なのかを理解することになった。
その証拠は彼が持っていた本に記されていた。

「堕ちる」とは、彼らの意思とは反して、自らの願いを捨て去ることを意味していた。
そして、彼らはその「振り」によって、かつての自分を引き寄せてしまったのだ。
「一緒に来いよ」と翔の声が響く。
その声には、悪意が溢れていた。
彼はもはや彼らと同じ世界の住人ではなくなっていた。

彼らは逃げ出したが、逃げれば逃げるほど何かが迫る感覚が強まった。
翔は笑っていた。
彼の目は虚ろで、まるで他の世界へと堕ちてしまったかのようだった。
やがて、彼らはその場所から離れたが、後ろで響く彼の声が耳に焼きついて離れなかった。

それから数ヶ月後、翔が学校に姿を見せることはなかった。
しかし、彼が消えた後、一人ずつ、彼の周りにいたクラスメートたちが不思議な病にかかり始めた。
何かを失ったかのように、顔から笑顔が消え、不安そうな表情が漂っていた。
彼らは、あの日の悪夢から逃れられずに、心が堕ちていくのを感じていた。
翔のことを思い出すたびに、彼らの心には冷たい恐怖が生まれていたのだった。

タイトルとURLをコピーしました