浮はある地方都市に住む高校生で、いつも周りのことを意識せず日々を過ごしていた。
彼の父親は町の伝説を語る小説家で、浮が通う学校にもその影響で奇妙な噂が広がっていた。
特に、学校の裏にある古びた神社には「振り返りの輪」という言い伝えがあった。
その神社では、特定の時間に「命」をかけた上で願い事をすると、振り返った時に自分の運命が変わるという。
だが、同時にその願いの代償として、振り返った瞬間に他者の命を奪う現象が起こることも伝えられていた。
噂を耳にした浮は、半信半疑ながらも興味をそそられた。
ある晩、浮は友人たちと肝試しをすることになり、その神社を訪れることにした。
彼の心の中には、自分だけの特別な願いがあった。
彼は学校での成績向上を願ったが、同時に、一生仲良くしていられる友人の命も気にしていた。
そのため、浮は彼らに声をかけ、神社の前で一緒にお祈りをすることに決めた。
夜が深まり、友人たちが神社に集まった。
その中には拓也と美香もいた。
浮が「振り返りの輪」の話をすると、二人は少し笑っていたが、次第にその神社の神秘に引き込まれていく様子だった。
浮は神社の中心に立ち、心の中で願いを唱えた。
「どうか、今よりももっと良い未来を。お願い、神様…」
浮が願いを終えた瞬間、周囲の空気はどこか重く、静寂が支配した。
拓也が不安そうに「本当に大丈夫なのか？」と尋ねたが、浮は首を振り、全てがうまくいくと確信していた。
すると、美香が「もう、やめたほうがいいんじゃない？」と言い出した。
その時、どこからともなく低い声が聞こえてきた。
「振り返りなさい…」その声は耳元で囁くように響き、浮は恐怖を感じたが、思わず振り返った。
彼が振り返った瞬間、拓也の身体が突然崩れ落ちた。
浮は驚愕し、何が起こったのか理解できなかった。
美香の悲鳴が響き、その場は混乱に包まれた。
拓也の命は、流れ出るように消えていった。
浮はただ呆然と立ち尽くし、目の前で起きた現象を受け入れられなかった。
浮は混乱の中、友人たちの叫びも虚しく響くのを聞きながら、神社から逃げようとした。
しかし、その瞬間、何かが浮の心の奥底に寄り添うように感じられた。
それは「輪」のように彼の周りを取り囲んでいた。
次の日、浮の部屋の壁に一枚の手紙が貼られていた。
「一度消えた命は戻らない。しかし、あなたが求めた未来はあなたの手の中にある。」浮は自分が願い事をしたことを思い出し、その代償として友人を失ったことに気づいた。
浮は後悔の念に苛まれ、彼が振り返ったその瞬間に何が起こったのか、果たして彼が望んだ未来は本当に手に入れられるのか、悩む日々が続いた。
浮は自分がかけた命の重さに押しつぶされそうになりながらも、拓也のことを考えずにはいられなかった。
次第に、浮の周りには奇妙な出来事が続くようになった。
友人の影が見えたり、夜になると誰かが振り返った時のような冷たい風が吹いたりした。
彼は夜ごとに悪夢にうなされ、その内容はいつも拓也の悲しむ姿だった。
彼は「振り返りの輪」の存在を誰にでも話すことができず、苦しみ続けた。
浮は、これからどうすればいいのだろうかと迷い続けていた。
命がどれほど大切なものか、そしてその重さを忘れずに生きることが、全ての人にとって重要であることに気づくまで、彼の心の傷は癒えそうになかった。
