夜の町外れに、不気味な噂で知られる「桜木公園」があった。
噂によれば、その公園では決して振り返ってはならないという。
振り返った瞬間、そこにいたはずの人が影のように消えてしまうというのだ。
地元の人たちは恐れをなしてその公園を避けていたが、好奇心旺盛な青年、翔太は噂を信じることができず、公園を訪れることにした。
翔太は友達に声をかけるが、誰も彼について来ようとはしなかった。
「お前も噂の一部になりたいのか？」と友達は笑って言った。
翔太は一人で公園に向かうことを決意した。
夜が深まるに連れて冷たい風が吹き、彼の心に小さな不安が芽生えた。
桜木公園に足を踏み入れると、薄暗い樹木が揺れる音だけが響き渡った。
心臓が高鳴り、彼は自分自身を励ましながら進んだ。
公園の奥、桜の木が立ち並ぶ場所に、彼は歩を進めた。
夜空に浮かぶ月明かりが、木々の影を作り出し、まるで何かが潜んでいるかのように見えた。
彼は桜の木の下で立ち止まり、周囲を見回した。
どこか不気味で、静まり返った空気が漂っている。
「本当に何もないな」と心の中でつぶやいたその時、背後からはっきりとした声が響いた。
「翔太…」
彼は一瞬凍りついた。
その声は明らかに彼の名前だった。
振り返ることをためらいながらも、好奇心が彼を動かした。
彼は勇気を振り絞って振り返ると、そこには誰もいなかった。
ただ、空気が冷たく、薄暗い闇が広がっているだけだった。
「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、そのまま立ち去ろうとした。
しかし、またもやその声が響いた。
「翔太…一緒に遊ぼうよ。」
その声はかすかに、しかし確かに近づいてくる。
しだいに翔太は心臓が高鳴り、恐怖が彼の心を支配し始めた。
彼は再び振り返ることを躊躇ったが、もどかしさから逃れるために目を閉じ、振り返った。
その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、暗闇の中から差し込む薄っすらとした影だった。
まるで長い髪をたなびかせた少女の姿が、微笑みながら立っていた。
「翔太、私を見て…」その声は eerie に響き、彼の心をさらに凍らせた。
その影は徐々に近づいてきて、踏み込みつつあった。
翔太は冷たい汗が流れる中、逃げなければならないと判断した。
しかし、足が動かない。
心の中で叫びながら、彼はただ立ち尽くしていた。
少女の手が伸びてくる。
彼の近くでその手が止まり、彼女は微笑んだ。
だがその微笑みは、なんというか恐ろしさすら感じさせるものであった。
「ねえ、翔太。逃げないで。ここにいてよ。」
翔太は心臓が破裂しそうなほど高鳴り、目の前の存在がただの影であるか、それとも現実なのかの境界が曖昧になっていく。
彼は意を決してその場から逃げ出すことを決めた。
背を向け、一目散に走り出した。
だが、その瞬間、彼の視野の隅に影が追いかけてくるのを感じた。
「翔太、待って！」という声は、耳に残り、彼の心に不安を植え付けた。
その影は、彼が走るごとに少しずつ近づいてくる。
彼は必死で公園を抜け出そうとした。
やがて彼は公園の出口へと辿り着いたが、何かが彼を掴んでいる感覚がした。
背後から迫る気配に恐れを抱きながら、何とか振り返らずに一歩踏み出そうとする。
しかし、ただその瞬間、彼は「振り返るな」と自分に言い聞かせた。
目を閉じ、全力でその場を離れようとしたが、恐怖が再び彼を包み込む。
彼は突然、何かが彼を引き寄せるように感じた。
その瞬間、彼は心の奥底で何かが消える音を聞いた。
桜木公園の闇にのみ込まれ、翔太はそのまま姿を消してしまった。
少女の声が背後で響き、彼を呼び続けた。
「翔太、また一緒に遊ぼう…」
次の日、彼の友人たちは公園の話を聞き、彼を探していたが、彼の姿はどこにもなかった。
そして今でも、桜木公園では夜になると、翔太の名を呼ぶ少女の声が響き渡ると言われている。
闇に隠れた恐怖の中に、一人の青年の影が消えたまま…。
