静かな園の中に、ひっそりと佇む古びた木があった。
その木は「折れた木」と呼ばれ、当地の人々にとっては忌まわしい存在だった。
かつて、青木という名の若者がその木の下で大切な約束をし、人生の功を求めて旅に出たが、そこで不幸にも事故に遭い命を落としてしまったと言われていた。
それ以降、彼の霊がこの場所に留まっているのではないかといううわさが広まり、誰もその木に近寄ることはなかった。
夏のある日、佐藤美奈(みな)は友人たちと肝試しに出かけることになった。
彼女たちの中には、少々の恐怖を楽しむのが好きな者もいれば、全く信じていない者もいた。
美奈は、折れた木の話を知らず、ただの昔話だと思いながら、友人たちに加わった。
夜、月明かりに照らされた園に足を踏み入れると、不自然な静けさが彼女の心に迫ってきた。
しかし、友人たちの笑い声によってその不安は和らいだ。
彼女たちは木の方に向かって進み、折れた木の前に辿り着いた。
その姿は、月明かりを受けて不気味にそそり立っていた。
「これが噂の折れた木か…」友人の一人が声を漏らす。
美奈は無邪気に笑いながら、「こんなもの、怖くないよ」と言った。
その瞬間、微かな風が吹き抜け、木の葉がざわめくと、何かが彼女の心に響いた。
気配を感じたのだ。
その瞬間、彼女の頭に「折る」という言葉が浮かび上がった。
友人たちは恐れを抱き、すぐにそこを離れようとしたが、美奈は興味が湧いてしまった。
友人たちの声は徐々にかすんで行き、彼女は一人、木の近くに留まることにした。
彼女は手を伸ばし、木の幹に触れてみた。
すると、突然、彼女の目の前に青木の姿が現れた。
彼の目は悲しみに満ちており、何かを訴えているようだった。
「助けて…私を解放して…」美奈はその声に耳を傾け、心が揺れた。
青木の影は次第に強くなり、まるで彼女を引き寄せているようだった。
その瞬間、美奈は彼の過去を直接感じ取り、その呪縛や孤独感を理解した。
無意識のうちに彼女は言った。
「私はあなたを解放してあげる。もう一度、折れることはない。」
言葉が彼女の口からこぼれ落ちると、青木は微笑み、彼女の手を優しく包んだ。
「ありがとう…それが私の願いだった…」彼女の心の中で何かが折れる音がした。
彼女はその瞬間、青木の過去を抱えた彼の苦しみを背負い、共感を持った。
美奈が再び気を失うと、彼女の周りは急に静寂に包まれた。
彼女が目を覚ますと、青木の姿は消え、その場には何も残っていなかった。
だが、木は少しだけ元気に見えた気がした。
彼女は友人たちの声を探しに園を走り出し、彼女の心に青木の温もりが残っていた。
しばらくして、彼女は仲間に合流したが、妙な気分が離れなかった。
彼女は思った。
「この折れた木は、過去を背負う者の場所だったのかもしれない…。」その後、彼女は肝試しの話をすることなく、心の中でその出来事を抱え続けた。
時間が経つにつれ、美奈の心には彼女自身も理解できないほどの変化が訪れていた。
彼女は気づくことができた。
過去を抱えさせることだけが、折れた心にはならないのだと。
彼女は今後、誰もが犯しがちな過去の重荷を背負うことの大切さを忘れずにいようと自分に誓った。