夕暮れ時、静かな公園に佇む5人の高校生たち。
彼らは放課後のひとときを、友達同士で過ごすことを楽しみにしていた。
しかし、彼らの笑い声とは裏腹に、公園にはひとつの不気味な噂が流れていた。
「この公園には、失われた者が戻ってくる」というのだ。
誰もがその噂を軽く捉え、ただの悪ふざけだと思っていた。
その日、彼らはいつものように自分たちの定位置で集まり、ゲームを始めた。
手に持っていたスマートフォンが光り、バックグラウンドミュージックが流れる中、彼らは楽しんでいた。
しかし、ふとした瞬間、彼らの間に不穏な空気が漂い始めた。
明るかった公園が、徐々に薄暗くなり、周囲の風景がまるで歪んで見えるようになったのだ。
「おい、ちょっとこの公園、変じゃない？」と、タクヤが言った。
彼の声には明らかな不安が浮かんでいた。
「だよな。急に暗くなったし、幽霊でも出そうだ」と、ユキが笑って返すが、その笑顔は次第に引きつってきた。
そんな時、グループの中でも特に元気なリョウが不意に黙り込んだ。
彼は、目の前に現れた「何か」をじっと見つめていた。
それは透き通った影のような存在で、まるで元いた場所に戻ろうとするかのように漂っていた。
リョウの視線を追った友人たちは、その影を見ることはできなかったが、何か不穏な気配を感じていた。
「リョウ、どうしたんだ？」と、ナオミが不安そうに尋ねる。
「奴がいる」と、リョウは答えた。
「何が？」と、他のメンバーが尋ねると、リョウは「以前、ここで行方不明になったクラスメイトの和也だ。彼が戻ってきた」と言った。
それを聞いた瞬間、友人たちの間には緊張感が広がった。
和也は数ヶ月前に失踪し、その後見つかることはなかった。
無理やり笑顔を作ったナオミが言った。
「まさか、戻ってくるなんてことあるわけないよ。幽霊とか、そういうの信じないし！」しかし、彼女の言葉にはどこか心の中の恐れが滲み出ていた。
すると、突然、強い風が吹き抜け、その場にいる全員が驚いた。
リョウの目が大きく見開かれ、彼は動けなくなった。
「和也が助けを求めている。彼を解放してあげなきゃ」と言った。
友人たちは耳を疑いながらも、リョウの手が自分の知らない力に引き寄せられるように、影に近づいていくのを感じた。
「やめろ、リョウ！何かに取り込まれようとしてる！」と、タクヤが叫んだ。
しかし、リョウはその呪縛に抗えなかった。
「彼は帰りたいんだ、戻りたいんだ！」リョウの声はいつの間にか取り乱したものになっていた。
その瞬間、影が強く光り、まるでリョウを吸い込もうとするかのようにその存在感を増していった。
友人たちは恐れを抱きながら、彼を引き戻そうとしたが、何もできなかった。
ただ恐れと喪失感に呑まれて、固まっているばかりだった。
「和也、だめだ…！私たちのことは気にしないで…！」ナオミが涙声で叫んだ。
すると、その影が揺れ、リョウの体が何かに引き寄せられると、彼は瞬間的に正気を取り戻したかのように叫んだ。
「みんな、俺は行かない！絶対に行かないから！」
しかし、影は止まらなかった。
リョウの目が見開かれ、彼の身体が地面から少し持ち上げられた。
「まだ時間が必要だ！和也が戻るためには、私の心が必要だ！」と言い残し、リョウは影に消えていった。
友人たちは驚き、恐れに包まれ、自分たちの無力さに打ちひしがれた。
そして、その公園には静寂が戻った。
数ヶ月後、景色が元に戻る中、彼らはリョウのことを忘れられなかった。
友人を失い、戻れない彼の名を、何度も口にした。
公園には、今もなお、不気味な噂が流れる。
失われた者が戻ってくる場所として。
