彼の名前は翔太。
東京都内で働く平凡なサラリーマンだ。
毎日の仕事に追われる中、彼は心のどこかで日常からの逃避を求めていた。
ある日、友人から教えられた「電」での心霊体験の話が、彼の興味をそそった。
都会の喧騒を離れ、彼は友人と共に電の駅で怪しい噂が立つ古びたトンネルに足を運ぶことに決めた。
そのトンネルは、かつて電車が通っていたものの、事故が多発したために閉鎖されていた。
そのせいか、トンネルは不気味な雰囲気を醸し出していた。
翔太は勇気を振り絞ってトンネルの中に入った。
暗闇に包まれ、冷たい風が彼の肌を撫でると、背筋が凍る思いがした。
この場所で何か起こる予感がしたのだ。
友人と共に進んでいくと、周囲の音が徐々に消えていき、静寂が訪れた。
翔太の心臓は鼓動を速くし、彼は何か不安を感じ始めた。
進むほどに、壁には金属音が鳴り響くようになり、電気のトンネルの冷たい雰囲気が彼らを包み込んだ。
その時、友人が「翔太、見て!」と叫んだ。
彼は振り返り、壁に映る影を見た。
それはまるで人の顔が壁の中に埋まっているかのようだった。
不自然な形で歪み、翔太は思わず後ずさった。
友人も恐怖に怯え、「もう帰ろう」と言ったが、翔太は何かに魅了され、さらに奥へ進むことにした。
奥に進むうちに、今度は自分の足元に冷たい何かが触れた。
振り向くと、トンネルの出口が見えなくなっていることに気づいた。
慌てて戻ろうとするが、足元の冷たい感覚が彼を引き留めた。
心臓の鼓動が早まり、冷や汗が背中を伝った。
その瞬間、彼の耳元で低い声が囁いた。
「お前も、戻れなくなる。」
恐怖で身体が固まってしまった翔太は、再び壁に映る顔を見る。
その顔は彼に向かって手を差し伸べ、助けを求めているかのように感じられた。
しかし、その顔は徐々に崩れていくように見えた。
彼は目を閉じて、進む先を思い描いた。
気がつくと、彼は一緒にいた友人の姿が消えていることに気づいた。
「友人!?」と叫びながらトンネルを駆け抜けようとするが、壁はさらにざわめき、まるで彼を取り囲むように波打っていた。
異様な感覚が体を覆い、翔太は目の前の現実が崩れていくのを感じた。
突然、周囲が真っ暗になった。
何も見えず、ただ耳鳴りだけが響きわたる。
そして、彼は不安に駆られ、周囲の様子をうかがった。
すると、どこかから不気味な声が聞こえた。
「出会ったものは、ここに留まる。」
その瞬間、彼は動くことができなくなり、心の中に恐怖が渦巻いた。
時間が経つにつれ、自分がこの場所から逃げられないことを理解した。
彼は「戻れなくなる」と囁かれた言葉が、現実になってしまったのだと悟るのだった。
翔太の意識が薄れていく中、彼の周囲には何かがうごめく様子があった。
彼の記憶は消えかけ、その場所に囚われた「出会ったもの」として、新たな一歩を踏み出すこともできず、ただそのトンネルの闇に包まれていった。