陽介は、友人たちと一緒にキャンプを計画した。
週末に山奥のキャンプ場へ行き、自然に囲まれて過ごしたいと思ったからだ。
彼は自分のアウトドアスキルを自慢したい一心で、バーベキューの材料やテントを準備した。
そして、成美や拓海、絵理などの仲間たちを誘って、待ちに待ったキャンプの日を迎えた。
キャンプ場に着くと、陽介はテンションが上がり、周りの自然に喜びを感じていた。
友達と共にテントを立て、火を起こし、肉を焼く。
楽しい時間が流れていく中、陽介はふと、近くの森に耳を奪われた。
不気味な静けさが広がるその場所には、どうやら人々を遠ざける独特の雰囲気が漂っていた。
「陽介、どうしたの?」成美が心配そうに声をかける。
「いや、ちょっと森の方が気になって…」と陽介は言ったが、彼の目はその森を捉えていた。
夕食を終えてから、拓海が提案した。
「怖い話でもしようぜ!あの森にまつわる噂とかさ」。
それを聞いた陽介は、そのままの流れで語られる話に耳を止めていた。
「この森に入った人は、必ず帰ってこないって言われているんだ」と拓海が始める。
それを聞いて、陽介は急に気が重くなった。
友人と一緒なら大丈夫だと自分に言い聞かせたが、つい先ほどの不気味さが脳裏に焼き付いていた。
陽介は話の途中でトイレへ行くことにした。
真っ暗な夜の森を一人で歩くのは、すぐには慣れなかった。
しかも、森の中の静けさが彼の心をさらに不安にさせる。
トイレを済ませて帰ろうとしたその瞬間、背後で何かが動く音がした。
振り向くと、闇の中から何かの姿が見えた。
心臓が高鳴ってきた。
あれは何だろう?陽介の周囲は透き通るような静けさを持っており、彼の脳内の恐怖が倍増する。
そっと後ずさりし、慌ててキャンプ場へと引き返した。
「おそらく、ただの小動物だ」と自分に言い聞かせたが、心の奥には不安が残った。
キャンプ場に戻ると、見たことのないほどに仲間たちの表情が真剣だった。
「なあ、陽介、戻るの遅かったぞ。ちょっと気味の悪いことが起こったんだ」と絵理が言った。
「何があったんだ?」陽介は驚きを隠せなかった。
「ここの森に入った瞬間、呼びかける声が聴こえたの。『戻ってきて』って…」と拓海が続ける。
陽介の背筋が凍る。
ただの友人たちの冗談だと否定したいが、先ほどの経験が不安の影を強めていた。
その後、火を囲みながら、みんなで話をしていると、突如としてキャンプサイトの明かりが消えた。
「なんだ、これ…」成美が言った瞬間、真正面の森の中から、一陣の風が吹き抜けた。
すると、再び『戻ってきて』という声が響いてきた。
その声は、ただの音声ではなく、何かに操られているようだった。
「もうやめよう!帰ろう!」と陽介が叫ぶが、他の仲間もその声に引き寄せられ、恐怖に浸り込んでいる様子だった。
彼らは明らかに異様な雰囲気に取り込まれ、現実感が薄れていった。
逃げ出そうとした陽介の前に、薄暗い影が立ちふさがった。
それは、異次元から現れたような人影だった。
彼は恐怖でその場から動けず、友人たちも何かに囚われたように立ち尽くしていた。
その影はじわじわと近づいてきて、声をかけてきた。
「あなたたちが戻ってくるのを待っていたの…」
瞬間、陽介は意識を失った。
次に気がつくと、彼は一人ぼっちでキャンプ場の外に立っていた。
友人たちの姿はどこにも見えなかった。
果たして彼は何を見たのか。
森には、彼だけが残されたという事実が、深い深い闇へと導いていくのを感じていた。
あの日、彼はその不気味な森に「戻ってきて」と呼び寄せられたのだ。
そして、彼は自分だけが成り行きを語る者となってしまった。