彼の名は健二。
貧しい大学生で、毎日講義を受けた後、古本屋でアルバイトをしていた。
古本屋は町外れの薄暗い場所にあり、年季の入った本が乱雑に並んでいる。
誰もが足を踏み入れたがらないような雰囲気の中、健二は静かな時間を楽しんでいた。
ある日、彼は店の奥にある埃をかぶった棚の中から一冊の本を見つけた。
そのタイトルは「憑き物の書」。
表紙は古びており、触った瞬間、冷たい感触が指先に広がった。
興味本位で手に取り、ページをめくってみると、そこにはさまざまな悪霊や憑依の事例が記されていた。
特に目を引いたのは、強力な憑依の儀式についての記述だった。
家に帰った健二は、いくつかの儀式を試みることにした。
初めは冗談半分だったが、次第に彼はその儀式に夢中になっていった。
活字の持つ力を信じるようになった彼は、自らを試すかのように、次第に深い儀式へと進んでいった。
数日後、健二はある儀式を行った。
その結果、彼はどこかで「見られている」感覚に襲われるようになった。
自宅の静寂の中、彼は誰の気配も感じないはずなのに、背中に視線を感じることが多くなった。
気にするのをやめようと心に決めたが、次第にその感覚は強まった。
次第に奇妙な現象が頻繁に起こるようになった。
物が勝手に動いたり、悪夢にうなされたりする日々が続いた。
特に、寝ているとき、誰かが彼の体を覆い隠すような感覚があり、目を覚ました時には廊下に誰かの足音が聞こえたりした。
彼は次第に精神的に追い詰められていった。
心配になった健二は友人の拓也に相談した。
拓也は半信半疑で話を聞いていたが、彼を常に心配していた。
健二はその奇妙な本のことを話し、やがて彼はその本を見せた。
拓也は「こんな本、何か罰当たりなことが書いてあるんじゃないか?」と眉をひそめた。
「一度、儀式をやり直してみるのがいいんじゃないか?」
拓也の提案で、彼らは再び本に戻り、正しい方法で憑き物を祓うための儀式を行うことにした。
しかし、儀式を進めるにつれて、突然周囲の空気が変わり、ろうそくの炎が揺らぐのを見た瞬間、健二の心は不安でいっぱいになった。
儀式が終わった後、健二は自分を取り戻したように感じ、安心したが、肝心の影はまだ近くにいた。
拓也もまた不安そうに見ていた。
すると、健二の身体が突然硬直し、言葉が声にならなくなった。
彼の意識の中で何かが暴れ回り、視界が暗くなっていった。
「助けてくれ!」と心の中で叫びながら、彼は自分を取り戻そうと必死になった。
その時、背後から聞こえる笑い声が彼の耳に飛び込んできた。
それはまるで、彼が探し求めた強力な「憑き物」の正体であった。
「私を置いていくつもりか?」そんな声が響いた。
拓也は驚きと恐怖で目を見開いた。
「健二!」と叫び、彼を救おうとしたが、その瞬間、彼の目の前に現れた影の正体は、健二自身であった。
影に呑まれた健二は、ただの無気力な身体となり、監視者となった。
その後、拓也は一人きりになり、恐怖から逃れようとしたが、彼にもまた何かが憑依していた。
それは決して忘れられない記憶、健二との思い出という名の「憑物」であった。
その後、健二の姿は古本屋に残り続け、誰も見たことのない奇妙な本と共に、彼の影が誰かを見つめている。