深い山奥に、村人たちが決して近づかない場所があった。
その山には、常に不気味な霧が立ち込め、昼であっても暗い影が覆っていた。
村の善良な者たちは、その山を「憎しみの山」と名付け、決して足を踏み入れなかった。
しかし、一人の若者、健太はその真実を確かめるため、恐れを捨てて山に挑むことにした。
健太は孤独だった。
両親は彼が幼い頃に亡くなり、彼は全てを自分一人で背負って生きてきた。
その心の奥に蓄積された孤独と憎しみは、次第に彼を闇へと導いていた。
壮大な山岳の美しさに魅了される一方で、健太は自身の心の暗闇を感じていた。
山へ向かう途中、彼は周りの異様な静けさに気づいた。
鳥の鳴き声さえも聞こえず、ただ山の低い喘ぎ声だけが彼の鼓膜を打った。
次第に、彼はその闇に不安を覚え、帰ろうかとも思ったが、彼の心の中の憎しみがそれを許さなかった。
山の頂上に辿り着くと、そこには奇妙な光が立ち込め、冷気が彼の肌を撫でた。
健太は、その光の中で何かがうごめいているのを見つけた。
目を凝らすと、不気味な人影が現れた。
それは遥か昔にこの山で命を失った者の霊であり、憎しみと悲しみを抱えたまま彷徨っていた。
その霊は、かつてこの山を支配していた権力者の姿をしていた。
彼は村人たちに恨みを持ち、その冷たい視線が健太へと向けられる。
「お前も憎しみを抱えているのか。」霊は囁くように言った。
健太は心の底からうなずき、言いようのない孤独感が彼を襲った。
「私に力を与えろ。お前の憎しみを私に捧げよ」と、その声は絶叫となった。
健太は霊の存在に引き寄せられ、自身の憎しみが彼の心を覆い尽くすのを感じた。
彼は、これまで抑え込んでいた感情が解き放たれるのを感じ、心の闇に飲み込まれていく。
瞬間、健太の周りは真っ暗になり、彼の体は霊と融合していく。
彼は憎しみの塊となり、闇の中へと消えていった。
その姿はかつての健太とは別人のように、冷たい炎を帯びた者となっていた。
村への恨みを持ち続ける彼に、もはや人間の心は残っていなかった。
彼の存在は村へと迫る影となって、次第に人々はその影を恐れるようになった。
夜な夜な、憎しみに満ちた冷たい風が吹き荒れ、誰もがその山に近づかなくなった。
健太は、山の闇の中で永遠に憎しみに囚われ続け、その影は他者を引きずり込もうとしていた。
人々はいつしか、村の近くで不気味な声を聞くようになった。
健太はかつての仲間たちに憎しみを向け、彼の心の中の闇はますます膨れ上がっていった。
彼はもはや健太ではなく、「憎しみの化身」として山の主となっていた。
もしも憎しみを抱いている者がこの山に近づけば、健太の望み通り、闇に引き寄せられることだろう。
そして、また一人、新たな憎しみの霊が生まれ、山の中で彷徨い続ける運命となるのだった。
山の影には、今もなお、憎しみが静かに息づいている。