「憎しみのトンネル」

小さな街の片隅にあるトンネルは、その名も「憎しみのトンネル」と呼ばれていた。
このトンネルには奇妙な噂が絶えず、現れては消える「謎の存在」がいるとささやかれていた。
彼女の名前は由紀。
彼女はその噂を好奇心から確かめるため、友人たちとトンネルの中に入ることを決めた。

「本当にこんなことしなくても良いんじゃない?」友人の恵美が心配そうに言ったが、由紀は屈託のない笑顔を浮かべ、「大丈夫だよ、何も起こらないって」と返した。
彼女はいつもどおり、仲間たちの関心を引くことにしか興味がなかった。
恵美ともう一人の友人、浩二もそれに付き合うことになった。

トンネルの入口は薄暗く、周囲には人けがない。
静まり返った中、彼らはトンネルに足を踏み入れた。
時間が経つにつれて、薄暗いトンネルの中へは冷たい風が流れ込み、肌寒さが増してきた。
由紀は次第に緊張を感じ始めたが、彼女の好奇心はそれを上回っていた。

トンネルを進んでいると、突如として背後から不気味な声が響いた。
「出て行け…」その声に振り返ると、誰もいない。
由紀は友人たちに目を向け、浩二が震えているのを見た。
「おい、何かいるぞ…」彼の顔は青ざめていた。

「そんなの気のせいよ、続けようよ」と由紀は強がった。
だが、心の奥底では恐怖が忍び寄っていた。
その瞬間、トンネルの壁に書かれた文字が彼女の目を引いた。
「呪われた者、憎しみをもって来たる者、あなたの命を奪いし者が待つ」と。

由紀はその文字に引き寄せられるように近づき、背筋が凍りつく思いをした。
しかし、先を急ぐ友人たちの様子を見て、これ以上彼らを怖がらせることはできまいと、無理に笑顔を作って進んだ。

トンネルの奥へ進んで行くと、別の声が再び響いた。
「私を憎むのか?」その声は低く、重く、まるで何かが由紀の心に響くようだった。
由紀は耳を塞ぎたくなったが、それは無駄だった。
次第に、友人たちの様子が変わっていった。
浩二は自分を隠すように身を縮こまらせ、恵美はどこか遠くを見つめながら泣いていた。

「由紀、もう帰ろうよ…」恵美の声は泣きそうだった。
「いや、まだ何かあるはずだ!」由紀はそう言い切ったが、彼女自身も恐ろしさに震えていた。
トンネルの奥には、穢れた記憶が存在した。

さらに奥へ進むと、何かが彼女たちの前に現れた。
それはまるで人間の形をした影、というよりも「憎しみ」としか形容できない存在だった。
由紀は目を凝らした。
その影は彼女の中に抑え込んでいた「憎しみ」の部分を映し出した。

「お前たちの内にある憎しみ、忘れ去った人々の想いが、ここで結実している」とその影は告げた。
気がつくと、由紀の心の中には彼女が長年抱えていた、周囲への憎しみが突如として浮かび上がっていた。
友人たちもまた、まるで自分たちの内面を見せられているかのように苦しんでいた。

由紀はその瞬間、身を守るために強く叫んだ。
「行かないで!私たちは憎んでいない!その感情を手放す!」声を張り上げると、周囲がわらわらとざわめき始めた。
すると影は煙のように姿を消し、恐怖が緩和された。

出口を見つけ出し、やっとトンネルを抜けた彼女たちは、外の明るい光に安心感を覚えた。
お互いに無言で見つめ合い、何かを感じ取っている。
憎しみの感染から解放されたかのように、彼らは新たな絆を感じていた。

この経験が彼女たちの心に何をもたらすのかは、まだわからない。
しかし、由紀は決して忘れないだろう。
トンネルで見た「憎しみ」の幻影、それが彼女を強くさせるための試練であったことを。

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