彼の名前は学。
彼は小さな町に住む女子大生で、恋人と共に静かな日常を楽しんでいた。
彼女の恋人、健は優しく、いつも彼女を大切に思っていたが、ある日突然失踪してしまった。
町の人々は、健が何かに巻き込まれたのではないかと噂していた。
学は心配でたまらず、毎日彼を探し回っていた。
ある夜、学は無性に健のことを思い出し、恋しい気持ちが募っていた。
そして次の日、彼女は町外れにある古い神社へ行くことにした。
この神社は昔から愛の神様が祀られていて、願い事をすれば叶えてくれると言われていたからだ。
彼女は神社の境内に足を踏み入れ、健の無事を願った。
その神社はどこか不気味で、静寂が広がっていた。
でも、学は気にせず、心の中で健の名前を呼び続けた。
すると、ふと視線を感じた。
振り向くと、神社の奥の方に人影が見えた。
男性の背中だった。
驚いた学は、一瞬その人のことを健だと思った。
しかし、彼はすぐに姿を消してしまった。
「待って！」学は叫んだが、返事はなかった。
心臓が高鳴り、彼女はその影を追って神社の奥へ進んだ。
木々が生い茂り、まるで彼女を拒むかのようだったが、学は恐れを振り払い、かつての愛を取り戻すために進み続けた。
奥にある清潭にたどり着いた学は、透き通った水面を見つめる。
すると、水面に不気味な跡が浮かび上がる。
それは明らかに健の名前だった。
学の心臓は冷たく凍りついた。
彼女が望んだ愛の神様の力は、健の存在を浮かび上がらせたのかもしれない。
しかし、その跡は次第に黒く染まっていく。
「このままではいけない」と思い、再び健の名前を呼び続けた。
すると、またあの影が水面に映る。
その影はすぐに消えたが、学はその姿に何か異様なものを感じた。
愛する者の行方を求めながら、同時に彼女が犠牲になる恐怖も湧いてきた。
「健、私を助けて」と涙ながらに叫んだ学の声に、何かが反応したのか、突然、清潭の水が荒れ始めた。
その瞬間、彼女は異次元のような空間に引き込まれてしまった。
周囲には健と似た顔を持つ人々が浮かび上がり、彼女に向かって手を伸ばしてくる。
彼女はもがき、逃れようとしたが、その手は強く、彼女を捕らえようとする。
心の奥から愛する健を思い、学は必死にその手を振り払おうとした。
だが、彼女の心は愛のもつれに絡まり、逃げられなかった。
その瞬間、彼女は気づいた。
彼女が望んでいたのは、実は健のためではなく、自分自身の愛のためだったのだ。
愛することに執着しすぎて、彼女は彼の存在を呪いの言葉に変えてしまったのだ。
愛の力が学の心を変えた瞬間、周囲は静まり返った。
最後に浮かび上がった健の姿は、微笑んで彼女に手を振り、次第に消えていった。
学は彼の呪縛から解放され、元の世界に戻った。
しかし、健の姿はもうそこにはなかった。
町に戻った学は、彼のことを忘れようとするが、心の奥には深い穴が開いたままだった。
清潭の神社は再び静寂に包まれ、小さな愛の跡が彼女の心にだけ残された。
それは決して消えることのない、怪しい愛の形だった。
