「愛の花と影の声」

静かな田舎町に、隣り合った二軒の家があった。
ひとつは山田家、もうひとつは佐藤家。
両家は長い付き合いがあり、子ども同士も仲良く育った。
山田の娘、由美は明るく、いつも笑顔を絶やさず、佐藤の息子、健二は優しい性格で、由美と並ぶといつも和やかな雰囲気が漂っていた。

ある日のこと、由美と健二は近くの川へ遊びに行くことにした。
二人の関係は年々深まり、お互いの存在はかけがえのないものになっていた。
しかし、その日、川に着くと、雲行きが怪しくなり始め、突然の豪雨に見舞われる。
二人は急いで近くの小屋に逃げ込んだ。

小屋の中で二人は雨宿りをしながら、互いの心の内を話すことにした。
「私、健二のことが好きなの」と由美が言った瞬間、健二の表情が変わった。
「俺も、由美のことが大好きだよ。」その言葉に安心した由美は、彼の手を優しく握りしめた。

しかし、それから数日後のこと、健二は急に行方不明になった。
町中を探しても彼の姿はどこにもなかった。
由美は不安を抱えながらも、健二がどこかで無事でいる事を願った。
ところが、数日後、由美の夢の中に健二が現れた。

「由美、助けて……」その声はかすかに響き、夢の中の彼は怯えた表情をしていた。
目が覚めた由美は、何かが起こる予感を覚えた。
真剣に考えた彼女は、健二が行方不明になった日は小屋に行くことにした。

小屋へ向かう途中、由美は健二との楽しい思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
しかし、その胸の高鳴りも虚しいものとなり、心に暗い影を落としていた。
小屋に着いた彼女は、扉を開けて中に入った。
雨が降り続ける音が心に響く。

小屋は荒れ果てており、物が散乱していた。
由美はじっと健二の姿を考えながら、彼が好きだった場所を探し回った。
すると、半分閉じた窓から強い風が吹き込み、不自然に小屋の中が揺れた。
その瞬間、かすかな声が耳に届いた。
「由美、僕はここだよ。」

驚きと恐怖が入り混じる中、由美は声のする方へと歩み寄った。
心臓が高鳴り、安らぎを求める気持ちでいっぱいだった。
窓の向こう側を見ると、そこには健二らしき影が立っていた。
しかし、彼の体がぼやけているように見え、まるで幻想のようだった。

「健二、どうしたの?」由美は叫びながら、手を伸ばした。
その瞬間、影は一瞬で目の前から消え、周囲が静まり返った。
由美は思わず涙を流した。
「私は代わりにここにいる。だから私を忘れないで。」

夜が更けていく中、由美は健二を失ったことを受け入れられずにいた。
このままではいけないと思った彼女は、彼の愛を永遠に心に刻むため、健二のために何かを残さなければならないと心に誓った。

数日後、由美は町の古い神社へ向かい、お祈りをして彼の無事を願った。
すると、神社の境内で見つけた白い花を手に取り、心の底から「どうか、私の愛が彼に届きますように」と祈りを捧げた。
そして、その花を小屋に持ち帰り、彼との思い出を形にすべく、その場所に花を植え始めた。

しかし、その後も健二の行方は知れず、由美は彼に会いたいあまり毎晩夢の中で探し続けた。
そして、夢の中で彼が「ありがとう、でももう僕は戻れない……」という声が響くたびに彼女は涙を流した。

月日が流れる中、由美は次第に健二の声を聞くことがなくなったが、毎晩その小屋を訪れることだけが彼との絆を感じる唯一の道だった。
そして、彼女の愛は不思議と小屋を守る花として静かに咲き続けた。

由美は次第に心の中の健二を忘れることができなくなり、愛を持ち続けながらも、彼が生きていた時の思い出を抱えながら生きることになった。
しかし、彼女の心の中には、代わりに健二が生き続けていた。
どこかで彼の温かな笑顔を感じながら、彼のための存在として生きていくことを決意したのだった。

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