「愛の帰り道」

終わったはずの愛。
彼女はいつまで経ってもその終わりを受け入れられずにいた。
名は佐藤美奈。
彼女には人並みの幸せがあった。
彼氏の悠斗は優しく、二人は互いに愛し合っていた。
しかし、彼の突然の死。
それが彼女の世界を一瞬で変えてしまった。

彼が病に倒れ、何の前触れもなくこの世を去ったとき、美奈の心は冷たく凍りついた。
亡くなった彼の温もりをずっと求め続けていた。
日々の生活はまるで夢の中の出来事のようで、周囲がどれだけ復活を促しても、美奈はその声を耳にしなかった。
彼を愛する心だけが彼女の中に残り、死後の明るい未来を夢見たことさえあった。

ある日、美奈は不思議な夢を見た。
悠斗が立っていた。
その姿はかすんでいたが、彼の笑顔は変わらず美しかった。
彼は美奈に「君の愛は俺をここに引き寄せるんだ」と言った。
目が覚めたとき、彼女は心が躍るのを感じたが、同時にその奇妙な思いが頭を悩ませた。

それ以来、美奈は毎晩、同じ夢を見つづけた。
夢の中の悠斗はいつも待っていた。
彼女が彼を思うほど、彼は鮮明になっていった。
美奈は次第に、現実と夢の境界が曖昧になっていくことに気付いた。
彼を愛することが、彼女の心に何らかの力を持っている気がした。

次第に、美奈は彼に会いたくてたまらなくなった。
心の奥底では、「愛の力が死者を帰らせるのではないか」と疑いを持っていたが、その想いは止められなかった。
彼女は廃墟となった約束の場所、二人が初めて出会った公園へ向かうことに決めた。
公園は、悠斗の思い出が詰まった場所だった。

その晩、美奈は一縷の希望を胸に、冷たい風が吹く日暮れの中、公園のブランコに座った。
彼女は静かに目を閉じ、悠斗への愛を心の中で語りかけた。
「ねえ、悠斗。私はあなたを待っています。どうか、私のもとに戻ってきて。」

その時、空気がひんやりと変わり、足元から不思議な気配が漂った。
突然、ブランコが揺れ、彼女の視界の中に悠斗が現れた。
彼の顔は柔らかい光に包まれ、まるで夢の中からこの世界に抜け出してきたかのようだった。
美奈は恐れを抱く暇もなく、彼に向かって叫んだ。
「悠斗!」

彼は微笑み、近づいてきた。
美奈の心は高鳴り、涙が流れた。
「どうしてこんなところに…」「君の愛が、僕を呼んだんだ。」悠斗はそう答え、彼女の手を優しく握った。

だが、その瞬間、冷たい風が彼の周りを包み、徐々に彼の姿は薄れていった。
美奈は慌てて彼にしがみつき、離れさせまいとした。
「お願い、離れないで!」しかし、悠斗の姿は消えゆくばかりだった。

「愛は強い…だけど、死は避けられない。」その言葉が美奈の耳に響いた。
彼女は彼を失いたくないあまり、愛がもたらした奇跡が、実は悲しい現実の反映であることを悟った。
彼女の心に愛が残る限り、彼はどこかで彼女を見守っていると信じた。

終わりはない愛、しかし彼女は知っている。
それでも心は過去に縛られ、悠斗への想いが決して消えることはないと。
彼女はその日から、自らの心を癒す旅を始めることを決意した。
彼を愛したその日々があったことを胸に、今ここに生きている自分を大切にしようと、彼女は暗闇の中で前を向いた。

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