「愛の呪い、影の座」

静かな街の片隅に、「乗」が運営する小さな座があった。
その座は、公共の場から少し離れた場所に位置し、地域住民を中心に愛されていた。
毎月、地元の人々が集まって演目を観るために賑わいを見せていたが、最近、座の周りにある奇妙な現象が噂になり始めていた。

ある晩、若い女優の「美咲」は、座の舞台に立っていた。
彼女の演技は素晴らしく、観客を魅了していた。
しかし、その日は特に緊張していた。
以前から彼女のファンである男性、拓也が座を訪れることになっていたのだ。
美咲は彼に好意を抱いていたが、拓也はいつも遠くから見守るだけで、自分の想いを伝えることができなかった。

演技の合間、セットの裏で、彼女は一通の手紙を見つけた。
それは古いもので、ゆがんだ文字で「愛の呪い」と書かれていた。
興味本位で手紙を開くと、そこには「愛を求める者は、魂を犠牲にしなければならない」とあった。
美咲は半信半疑でその手紙を読み進めたが、心に不安が広がった。

その晩、拓也が座に来ると、美咲は彼に自分の思いを伝える決心をした。
舞台の隅で、照明に照らされた彼女の姿は美しく、その瞬間、彼女の心は切実な願いで満たされていた。
それでも、手紙の内容が頭の片隅に残り、心のなかを静かにさまよっていた。

演技終了後、美咲は観客席から飛び出した。
彼女は拓也の元に向かい、「拓也さん、私…あなたに伝えたいことがあるの」と言いかけた。
だが、彼の目が彼女の後ろを見つめていることに気づいた。
振り返ると、薄暗い影が舞台の後ろに立っているのが見えた。
その影は、異様なほどの圧力を感じさせるもので、彼女の心拍が速くなった。

「おいで、愛の呪いを解いてあげる」と、影から声が響いた。
その声は甘いが、どこか冷たく、彼女を引き寄せようとしていた。
美咲は恐れを抱きながらも、その影から目を離すことができなかった。
やがて、影は実体を持ち、美しい女性の姿が現れた。
彼女の目は虚ろで、美咲の心の奥に秘密を教えようとしているかのようだった。

「あなたの愛が欲しい」とその女性はしみじみと語りかけた。
「でも、呪いを解くには、愛を捧げる者が必要なのだ。あなたはそれを捧げる覚悟があるか?」

美咲は震えながら、ポケットに手を入れ、手紙を握りしめた。
「私は愛を知りたい…でも、あなたが何を求めているのか、私はわからない」と唇が震える。

その瞬間、拓也が彼女を引き寄せ、彼女の肩に手を置いた。
「美咲、大丈夫、僕がいるから」と彼は囁いた。
彼の温もりが、美咲の心に安堵をもたらした。
影の女性はその瞬間、不気味に笑った。
「愛を得るには、ずっと一緒にいなくてはならない。そして、あなたの愛が呪われたことを知るが良い。」

次の瞬間、舞台の灯りが一斉に消え、真っ暗な空間に彼らは取り残された。
美咲は目を閉じ、拓也の手を強く握った。
彼女の心の中では、愛と呪いの葛藤が続いていたが、今は彼と一緒にいることが全てだと感じた。
そして、その瞳の奥にあった影は、少しずつ消えておぼろげになっていった。

翌朝、座を訪れると、周囲の人々はその晩の出来事について話し続けていた。
美咲と拓也はそれを理解しているようだったが、“愛の呪い”の存在を忘れたくない気持ちも抱いていた。
彼らは自分たちの心に愛の力を秘め、今後もお互いを大切にすることを決めた。

だが、美咲の心の奥底には、今でもあの影の感触が残っていた。
彼女は呪いの恐怖とは別のところで、自分自身の愛を試されていることを感じていた。
彼女はそれを理解し、恐れずに受け入れる覚悟を決めるのだ。

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