桜井美奈は、幼い頃からの友人、健太と特別な絆を持っていた。
しかし、彼女が高校生となったある冬の夜、健太は事故に遭い、命を失ってしまった。
美奈は彼を失った悲しみの中で、毎晩健太のことを夢に見るようになった。
夢の中で健太は、生き生きとした笑顔で彼女に話しかけてくる。
その様子に、美奈は少しずつ心の傷が癒えていくのを感じた。
ある晩、美奈は彼の夢の中で、彼が言った言葉を思い出した。
「私を忘れないで。いつでもそばにいるから」その言葉は彼女にとって、無意識のうちに生き抜く力となった。
数ヶ月後、春になり美奈は遠方の大学に進学することになった。
しかし、彼女の心は健太のことから切り離されることはなかった。
大学に通う毎日、彼のことを想いながらキャンパス内を歩くことは、逆に彼との思い出を心の中で育てていくことであった。
大学の近くには古びた神社があり、美奈はよくその場所に訪れていた。
ある日のこと、彼女はその神社の境内で、ひとり涙を流していた。
健太のことを思いながらも、どこか心の中に空を感じていた。
すると、その時、不思議な感覚に襲われた。
背後から、かすかな声が聞こえたのだ。
「美奈、私だよ。」
驚いて振り返ると、そこにはまるで健太の幻影のような姿が立っていた。
しかし、その影はかすかに光を放っており、まるで彼の存在がこの世のものではないような、異次元のものにさえ見えた。
彼女の心臓は高鳴り、不安と期待が入り混じった感情が渦巻いた。
「本当にあなた? 健太なの?」美奈は恐る恐るその影に向き直った。
影は頷き、微笑みながら近づいてきた。
「私は君を見ているけど、もうこの世界にはいないんだ。」彼の声は優しく、でもどこか切なかった。
「でも、君の愛を感じている。」
美奈は涙を流しながらも、彼に伝えた。
「あなたを忘れたくない。でも、どうすればいいの…」
影は彼女の手を優しく包み込むようにして言った。
「愛は形を変えるものだよ。私はこの場所にずっといる。君が私のことを思い出す限り、ここにいる。」
その言葉を聞いた美奈は、心のどこかが温かくなるのを感じた。
彼との思い出が、彼女にとって大きな支えとなるのだと理解した。
そして、命は肉体という形だけではないことも実感した。
美奈はその夜、神社で健太に向けて手を合わせた。
「私はあなたを心でずっと抱き続ける。愛は決して消えないものだから。」
その後、美奈は日常に戻ったが、健太との絆を強く実感しながら過ごしていった。
彼女は健太の思い出を胸に、自分の未来へ進んでいく。
時にはひとりで泣くこともあったが、彼の温もりはいつも彼女の心の一部として存在し続けた。
彼女は忘れ去られた存在になることのないように、愛を精一杯生きることを誓った。
彼女の心にはいつも、健太の笑顔が浮かんでいた。
それは彼女がこれからも大切にしていく、愛の証でもあった。