「悪霊の晩餐」

秋の夜、薄暗い街路灯が並ぶ道を歩く佐藤と中村は、古びたレストランの前で立ち止まった。
彼らは大学の友人同士で、好奇心が旺盛だった。
周囲には人影が少なく、冷たい風が吹き抜けていた。

「ここのレストラン、少し前に事故があったんだって」と佐藤が言う。
「料理中にシェフが心臓発作で亡くなったらしい。しかも、その後も経営が続けられていて、未だに営業時間は夜中なんだ。」

中村は興味津々で話に耳を傾けた。
「それって、もしかして心霊スポットになってるの?」彼女の目は好奇心で輝いていた。

「でも、そのレストランには、亡くなったシェフの悪霊が出るって噂もあるんだ」と佐藤が続ける。
「料理を食べた客が、必ず不幸になるってさ。」

興奮した中村は、そのレストランに入ることを決めた。
「行こうよ、確かめてみよう!」彼女の提案に、佐藤は少し躊躇ったが、結局彼もその気になり、彼らは中に入った。

レストランは薄暗く、テーブルにはたくさんの灰皿が並んでいた。
人影はまばらで、カウンターに立つ男性が一人、虚ろな目をして彼らを見つめていた。
「いらっしゃいませ」と、彼は冷たく言った。
気味が悪い雰囲気を感じながらも、二人は一つのテーブルに座った。

メニューを開き、一通り料理を見た二人は、名物の「シェフのおすすめ」を頼むことにした。
待っている間、レストランの薄暗い雰囲気と静けさが、徐々に不安を与えてきた。

料理が運ばれてくると、二人は目を見合わせた。
その料理は、美しく盛り付けられてはいたが、どこか不気味な香りが漂っていた。
中村は一口食べてみることにした。
「…美味しいかも」と呟くと、佐藤も思わず食べてしまった。

しかし、次の瞬間、彼らの周りが次第に静まり返り、薄暗い空気が重苦しくなっていった。
佐藤は心臓がドキドキし、苦しむような感覚を覚え始めた。
「なんか、気持ち悪くなってきた」と彼は口を開いた。

中村も同様に顔色を変えている。
「私も…何か悪い気を感じる…」彼女は料理を見ると、その盛り付けの中に、白い指が触れているのを見つけた。
「この皿、何か…。呪われてるの?」

彼らが焦り始めたところで、カウンターの男性が不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「お客様、悪いことが起こりますよ。この料理には、悪の念がこもっているのです。」

彼の言葉に急に恐ろしくなり、二人は立ち上がろうとしたが、体が動かない。
強い力に引き止められている感覚が彼らを襲った。
異変に気づいた佐藤が叫ぶ。
「早く出よう、何かおかしい!」

その瞬間、空気が変わり、まるで何かが彼らの背後から迫ってくるようだった。
中村は後ろを振り返ると、そこには白い手が現れた。
気がつくとその手は彼女の肩に触れていた。
「あなたたちが味わうのは、私の悪の心なんです」

二人の心臓は急激に高鳴り、悪夢の中に引き込まれる感覚に襲われた。
まるで、シェフの怨念が彼らの心の中に入り込んでいくかのようだった。

やがて二人は目を閉じ、「頼む、やめてくれ!」と叫んだ。
すると、悪霊の存在が薄れ、意識が戻ったが、彼らはすでにレストランの外に飛び出していた。
周りは雨が降り始め、静寂な夜に包まれていた。

恐怖と不安を抱えた二人が振り返ると、レストランはまるで存在しないかのように消えていた。
そして、彼らの背後から不気味な声が響いた。
「悪はすでにお前たちの中にいる。」

以後、佐藤と中村は、お互いを思い出すたびに、あの悪霊の存在を感じ続けることになった。
彼らの心には、永遠に消えない影が残り、夜になるとその影は彼らを呼ぶように囁き続けた。

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